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はるかぜ
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ブバルディア-1

「んー……」

幾つものデザイン画を前にわたしは唸ってしまう。
珈琲の香ばしい匂いが漂い静かな会議室にはわたしの声以外何も聞こえない。

「迷うなー」

また呟き顔を上げる。
目の前には少し退屈そうな雨水の顔。

「どれも似合うと思うけど?」

雨水は欠伸を噛み殺して言った。
わたし達は今新曲のイメージに合った衣装を選んでいる。
事務所専属のデザイナーが描いたイラストが5点。
どれも綺麗ですばらしいんだけど。


「なんか、こう、うん。イメージと違う気がするの」

雨水がはっとした顔をする。

「りっちゃんがそんな事言うの、初めて」

嬉しそうに笑う。
人懐こい笑顔。

「……ごめん。生意気」

慌てて手を振りながら言うと雨水はいやいやと手を振り返す。

「良いんだよ、りっちゃんだってRainの立派なメンバーなんだし」

そう言ってスマホを取り出しどこかへ電話を始めた。

「うん、うん、そう。悪いんだけど。来て」

わたしはぬるくなったオレンジジュースをごくごく飲む。


数分後、彼はやってきた。
赤いシャツに茶色のスラックス。
ネクタイはワインレッド。

「あー、わりぃーね」

すらりと背の高い30代くらいの男性は雨水の言葉を聞き流し彼の隣へ座った。

「で?何が気に入らないの」

むすっとした顔。
わたしは見たことも会ったこともなくて、首を傾げる。

「華燭、デザイナーの高橋さん」

雨水がにやにや笑いながら紹介をしてくれた。
びっくりして何度も頭を下げる。

「あ、あの、か、華燭ですっ。よろしくお願いしますっ」


それから数十分、わたしと高橋さんは意見を出し合いながら、デザインを作っていった。




ジャケット撮影の日。
都内の小さな教会へマネージャーによって連れて行かれる。

「うわー。綺麗な教会。花が一杯咲いてる」

緑の生け垣が教会をぐるりと囲み、小さな白い門扉を開けるとそこには色とりどりの花が咲き乱れていた。建物は白く大きな木の重厚な扉があり上を見上げると立派な鐘があった。

「すごーい」

誰にするでもなく拍手をしてしまう。


マネージャーに連れられて教会の裏手から中へ入り控え室に案内される。

ひんやりとしたそこの壁にはドレスカバーに入れられた衣装が掛かっていた。
部屋を開けて真っ先にその衣装をカバーから出す。

「わぁっ」

声が思わず出た。
イメージ通りに仕上がったそれに大満足して身体に当ててみる。


「綺麗」


白いシンプルなドレス。
マーメイドラインで光沢のある布。
裾は左膝あたりからスリットがゆるく入っている。
背面は引きずるほどに長くなっていてそこには無数のクリスタルビーズ。
それを隠すようにオーガンジーの布がランダムに縫い付けられている。
歩くたびにひらりひらりと揺れる。
腰には幅の広いオーガンジーのリボンがゆるりと巻きつけられ、左側で薔薇の形で結ばれている。
そこから垂れるリボンは片方がスリットを隠すように縫い付けられもう片方はそのままひらひらと揺れていた。

ドレスを戻し、側の箱を手に取る。
蓋を開けるとそこにはヘッドアクセサリーが入っていた。

大小種類もさまざまな白い花が冠のように連なり、白く塗られた小枝がバランスよく配置されている。
レースの見事なヴェールは長く広く垂れ下がり、そこにも無数のビーズが縫い付けられている。

「すごいなー」


ただ、ただ、単純に感動していた。


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