3.広がる沙漠-13
「誰が見たってあんたにヤラせるためにピル飲んで、こんな豪華な部屋に連れてきてもらってる」紅美子は胸元から上がる湯気の湿気の中で瞬きをすると横顔で見ると一層美しく反る睫毛から涙をこぼした。「頭が割れそう」
井上は紅美子を振り向かせた。膝立ちにさせて、腰を両手を添えて見上げる。紅美子は哀しみを湛えて赤くなった潤んだ瞳で井上を見下ろした。
「……こんな私と一緒にいて嬉しいんだ? さっきからずっと勃たせて」
ゆらめく水面の中で、脚を開いて座る井上の股間で男茎が、今までで一番の硬度で漲っているのが見えた。摩さぐられているときから、凭れかかった腰に触れているのを感じていた。
「嬉しい。興奮してる」
「……頭が割れそう」
紅美子は唇に笑みを湛えてもう一度言った。
湯に音を立てて井上が立ち上がった。縁に腰をかけ、岩壁に背をつけて脚の間に紅美子の手を引いて導く。髪を留めるヘアクリップに手を添えられ、股間へと引き寄せられていく。湯の中で歪んでしか見えなかった男茎が顔のすぐ前で屹立していた。
「したことない」
「ウソつくな」
「……私がしてあげると、すぐに出ちゃうから」
徹の名は出せなかった。彼とは色も形も違う、脈動の度に細かに震える男茎を観察するような目で見つめた。
「ぎこちないほうが興奮する」
「じや、最後に噛みちぎって握りつぶすね……」
と言って紅美子は男茎を握り、もう片方の手を陰嚢に添えた。顔を近づけていき、柔らかくシワの寄った陰嚢の中心の筋に舌先をつけると、ゆっくりと上に向かって舐め上げていった。時間を掛けて幹を登り、亀頭の先まで到達すると井上の男茎がビクンと震える。反応を示した場所を握り、親指の腹で小さく擦りながら、今度は唇を吸い付かせて中で差し出した舌先を動かしてもう一度根元から舐め上げていく。顔を接近させると、井上の男茎に絡みつく指に魔除けの指輪が光っているのが見え、湯船の中で紅美子の腰が前後に揺れて奥が蠢く。
井上の指が、髪を上げているために顕わになった耳をなぞり、うなじへと降りてくると、背中にゾクゾクとした感覚が走り抜けた。何度も下から上に唇を這わせていた紅美子は、やがて先端に到達した唇を亀頭に押し付け、唾液を滴らせて口の中に含んでいった。湯にまみれて分からなかったが、先走りの汁を零していたらしい、口の中に入れるや舌の上に味が広がってきた。幹をしごき、頭の裏側の凹みへ舌を押し当て吸い付いて顔を上下させる。井上が絞り出すような鼻息を漏らし、開いた内側に力が入って湯が撥ねる音がすると、下から捧げ持っていた手で軽く陰嚢を揉みほぐした。
「やっぱり……、したことないなんてウソだ」
井上の呻きが聞こえる。しかし今まで徹は紅美子の指が触れるだけで悶絶して、十年の間に熟知した敏感な場所を少し擽っただけで忽ち果ててきた。恋人の味といえば、体や手に飛び散った精液を舐め取ってやった程度で、徹を直接口に含んでやったことも舌を這わせてやったこともない。なのに、生まれて初めて舌と唇に触れている男茎の感触に、紅美子は胸の中に妖しい炎を灯し、井上が如実に反応を示す場所を貪欲に探していた。
井上が腰を少し前にズラし、紅美子の口腔への進入角を変えると、後頭部に添えられていた手を自分に寄せてきた。絞めた唇を擦り、幹が奥へと入ってくる。半分以上侵入してきたところで紅美子が息苦しくなって井上を見上げると、平静を保とうとしながらも小鼻や口元に今まで見たことがない欲情を浮かべ、そしてあの眼で紅美子を見下ろしてきていた。紅美子は男茎と陰嚢から手を離し、腰骨の辺りに置いて更に喉へと含み込んでいく。
亀頭の先が口蓋の柔らかい所まで到達すると、紅美子は水面を鳴らして腹の奥からこみ上げてくる嘔吐感に身を波打たせた。舌の上を幹が滑り、遠慮がちに窄めた頬を傘の縁が擦ってくる。えづきに誘発される涙に、哀しみも悦びも交ぜ合わせ、あまりの醇美さに負けてしまいそうになる快楽を体に巻き起こしていた。
「紅美子……」
後頭部を持った手が顎へ移り、亀頭を口元まで引いて上を向かせてくる。吸い付けた圧でグロスを傘に歪め、先端の膨らみだけを含んだまま見上げると、紅美子を身動きできなくする視線はそのままに、初めて見る井上の恍惚の表情があった。
(来る……)
と思うや否や、先端から噴出した熱い息吹が喉を叩いた。気管の方まで一気に流れ込んできそうになって咽る紅美子の口内へ、脈動の度に精液が撃迸してくる。一気に口に広がり、鼻先に抜けてくる井上の匂いに、二週間前何度も胎内に放出された情欲を改めて思い知らされながら紅美子は体の奥から何度も湯船の中に雫を緩ませていた。ゆっくりと腰を前後されて催促される。初めてなのにその意図を感じ取った紅美子は、頬を更に窄めて残滓を吸い取ると、唇に音を立てて亀頭を離した瞬間、口内に溜まっていた樹液を喉を鳴らして嚥下した。
「……すごかった」
率直な感想を吐露する井上が頬を慈しみ、首筋から肩筋まで下って脇の下を抱えるように紅美子を引き寄せてくると、紅美子は井上の股間でまだ男茎が屹立を続け、射精直後の悦びにさっきよりも大きく脈動して震えているのを眺めつつ逞しい肩に両手を添えた。湯に萎ったヘアを井上の指が撫で上げてきた。湯の中にいたにもかかわらず、指への期待を感じるだけで入口はヌメっていた。井上の指がいきなり二本で入ってくると、紅美子は、んっ、と声を漏らし、悩ましく腰を弯曲させる。
「今度は僕の番だ」