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爛れる月面
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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3.広がる沙漠-12

「……」
「……使わなくてもいい。それに、持っていた方が僕を殺しやすくなる。寝首がかけるから」
 と言うと、井上はルームフォンへ向かい、食事は終わった、と下膳を依頼した。


 紅美子がバルーンスカートを足元に落とした時、座卓に置いていた携帯が一度震えた。
『いま家にかえったよ。クミちゃんはまだ飲んでるかな。帰り気をつけて』
 そして――、
『早く会いたい』
 無邪気に送ってきた徹からのメッセージは最悪のタイミングだった。紅美子は携帯を座布団の上に投げると、カットソーを脱ぎブラを外した。身を屈めて脚からショーツを抜き取る。その際に井上と座卓の上で繋がった時にできたクロッチのシミ跡が見えた。
 しかしそれを見ても紅美子は躊躇で身が止まることもなく、長い髪を両手で後ろに束ね、捻ってアップにするとヘアクリップで挟んだ。食事をした部屋から露天風呂の方へ向かう途中の部屋には、先ほど仲居が敷いた布団が二つ並んでいた。枕元の間にはランプを模した電気ライトがある。紅美子は部屋の電気を消してライトを灯すと、薄闇の壁に寝室に備えられた物たちの影が放射状に映された。露天の方から湯が撥ねる音がする。じっと灯りを見つめた。徹からのメッセージを強い灯りを放つフィラメントに溶けた。
 格子戸を開くと、湯気の中で岩風呂に浸かって背を向けている井上が首だけで振り返った。
「遅いよ」
「見ないで」
 岩風呂の縁で胸元を腕で覆い、身を横に向けて膝を折った。「熱くない?」
 湯船に片手をつけて温度を調べる。
「江戸っ子はぬるい風呂には入らないんだろ?」
「なんだよ、こんなイイ女に向かって江戸っ子って」
 紅美子は苦笑しながら、岩壁に取り付けられたシャワーから湯を出し体に打たせてから、腰を上げて片脚を湯船に差し入れる。その様子を井上がじっと目で追っていた。
「だから見過ぎだっての」
「見とれるさ、そりゃ」
「……だよね。このカラダだもん」
 軽口を言って身を少しずつ湯船に浸し、井上の向こう側へ身を泳がせて進んで座ろうとすると、後ろから腕を掴まれた。「何?」
「遠い」
 腕を引き寄せられていく。
「いたいよ」
 そう言いながらも、紅美子は大きな抵抗なく井上の方へ身を戻していった。手が届くところまで近づくと湯の中で後ろから腕をウエストに回される。そのまま紅美子は井上へ凭れかかった。逞しい腕の中に抱かれる。蒸せる湿気の中に井上の体にまだ残っているムスクの香りが漂っている。抱きすくめた両手がバストへ上ってきて、水面に滴を撥ねて揉みほぐし、先端の乳首が指の腹で抓られる。紅美子は細かい溜息を漏らしながら、湯の中へ沈んで井上に体を預けていた。
「……ねえ」
「ん?」
 湯撥ねの音だけが暫く続いていた中、紅美子が声をかけた。
「あんたがドバイへ帰った日、婦人科へ行ったの。……、……私、ピル、飲んでる」
 バストを弄っている指がそれを聞いて一瞬動きを止めたが、それはほんの少しの間で、再び紅美子の美しい胸乳を愛しみ始める。紅美子は井上が日本を発つと言った日に病院に行き、避妊薬を処方してもらった。アフターピルではない。それならばもっと早く行くべきだ。生理初日から飲むように指示されたその翌日、予想していたとおりに生理がやってきた。
「なぜ今、そんなことを言う?」
「別にあんたにナマでさせてあげるためじゃない」
 井上の問いには答えず、紅美子は前を向いたまま言った。前栽の竹垣の向こうには木々の影だけが見え、更に奥に夜空が広がっていた。月が湿気の中に滲んでいる。
「徹が可哀想。十年もずっと私との約束を守ってくれたのに」
 紅美子は少しだけ井上を振り返り、横目で眺めて、「……だから、徹にもゴム無しでさせてあげるつもり。そうじゃなきゃ、徹が可哀想すぎるでしよ?」
 と繰り返した。
「だからなぜ今言うんだ?」
 井上が同じ質問をした。
「……誰かさんがずっとおっぱい触ってて、乳首が痛いから」
 紅美子は苦笑と自嘲の混ざった声を背後に聞かせて、「……触られてる、私。戻ってきたあんたに急に呼び出されて、温泉にきて、これからヤラれるの分かってて、一緒にお風呂に入ってる」
 声が震えた。瞼が熱い。
「徹のためにピル飲み始めたの。ここに連れて来られたからって、あんたがお風呂で待ってる間、タクシー呼んで帰ることだってできた。高速走ってたって、大声上げて助け求めることだってできた。徹にゴム無しでいっぱいさせてあげよう、って思ってた前の日に」
 井上の手は止まっていた。


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