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爛れる月面
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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1.違う空を見ている-30

 紅美子は絶頂の余韻に朦朧としていたが、井上の意図を察知して、気力を振り絞って目を見開く。井上は上体を起こし、紅美子の艶めかしく括れた腰を両手でしっかりと掴んでいた。
「何をやめて、って言ってるんだ?」
 そこには邪淫に満ちた男がいた。次の言葉を発しようとする前に下腹部に衝撃が走る。一度きりではない。息が詰まるほどに連続して打ち付けられて、
「あうっ……、……っ、……や、……、あ……、やめ、てってば……」
 胸が喘いで言葉が繋げない。
「思いっきりぶちまけてやるぞ……、楽しみにしてろよ……」
「やっ……、お、ねがい……、……やだっ! 徹っ……、とおっ……!」
 もう一度愛する人の名を呼ぼうとした口が井上の手のひらで塞がれた。
「……誰の名前を言ってる? こっちを見ろ。……君は今、この僕に犯されてるんだ……、違うヤツの名前なんか呼ぶなっ……、っく……」
 井上が雄叫びを上げて、思い切り男茎を打ち付けた。瞬間、亀頭の先から熱い粘液が迸り、紅美子の体の中へ注がれていく。激しく脈動する男茎が吐き出す陵辱の証を浴びせられながら、紅美子は井上の手の中でくぐもった声で悲鳴をあげていた。
 長い時間をかけて井上がピストンの速度を落としていく。涙が左右の目尻を通ってシーツにこぼれ落ちていた。井上は片手で紅美子の両手を結んでいたバスローブの紐を解きながら、ゆっくりと男茎を引き抜いていった。両手が自由になっても、繋がれていたときのままに身を横たえてぐったりと、犯されたショックで自失に陥ろうとしていた紅美子だったが、
(……!)
 ドロリと体の奥から、井上の迸らせた体液が流れ出した感覚に弾かれたように飛び起きた。身を起こすと更に流れ落ちてくる。
「や……、うわあっ!!」
 悲鳴を上げてベッドから駆け出し、途中躓きながらバスルームに駆け込んだ。片膝でしゃがんで蛇口を捻る。冷水のままのシャワーを下腹部に押し当てて指で自分を開いた。トロトロとしか流れ出てこない粘液を必死に水流で流し落としながら、
「やだ……、いやだ……」
 と憑かれたように繰り返した。流れ出る感覚が無くなっても、まだ残っている脅迫に、「お願い……、いやだ……、返して……」
「何を返せって言ってるんだ?」
 振り返ると井上がバスルームの入口に全裸のまま立っていた。その見下して、嘲るような顔を見ていると憤怒に衝き動かされて、紅美子は大声を上げてシャワーノズルを投げつけた。ホースに繋がれたノズルが派手な音を立ててタイルに転がる。鏡の前の棚に並べられているボディーソープやリンスのボトルも、洗面器や座り台も、言葉にならない狂ったような叫びを上げながら投げつけていく。周りに何も投げつけるものがなくなると、
「返せっ……!!」
 と井上に向かって飛びかかっていった。
「……中に出されてない清純なカラダを、ってコトか? ん?」
 掴みかかった紅美子の手首は容易く井上に捻り上げられ、髪を鷲づかみにされた。 「殺してやるっ……!」
 その怨貌を冷淡に見返され、
「思いっきりイッといて何言ってるんだ? このエロ女っ」
 体の向きを変えられると、甲で頬を信じられない強さで叩かれ、紅美子は短い悲鳴を上げてカーペットの上に倒れこんだ。暴力を振るわれたショック以上に、もうここにはいっときたりとも居たくない、という拒絶感が心を包み込んだ。まだ脳が揺れてフラつきながら立ち上がると、井上に剥ぎ取られたのであろう衣服を拾い上げながら身につけていく。その惨めな様子を全裸のまま立っている井上に一部始終見られて身を整え終えると、紅美子は部屋の外に早足で駆け出した。


「お姉さん、大丈夫? ……あぶないよ」
 タクシーの運転手の言葉を遠くに聞きながら、紅美子は公園に入っていった。アパートよりも随分手前でタクシーを停めて降りた。
 夜の公園は節電で間引かれた街灯では照らしきれずに暗かった。その薄闇の中を紅美子は悄然と歩く。垂れこむ闇が少し開けて、桜橋はその端を広く左右に開いて紅美子を迎えた。夜なのにぼんやりと空が光っていた。栃木で見た吸い込まれるような夜空とは異なり、くすんだ赤みが広がった空を覆う雲が風に流されいく。混沌とした中、雲に隠されてそこだけ茫洋と明るい月のもと、紅美子は橋を渡っていった。
 バッグの中が震えた。のろのろと口を開き携帯を取り出す。
『クミちゃん。まだ帰ってないの? 心配してる』
 何度もメッセージと着信が届いていた。ずっと眠らずに心配している。
 ……押してはいけない。
 だが紅美子の指は誘惑には勝てずに、画面の中のアイコンを押していた。呼び出し画面はすぐに通話の秒表示に切り替わった。
「……もしもし、クミちゃん?」
 まだ起きてたんだ。研究やらなきゃいけないんじゃないの?
 もしもし、もしもし、と何度も聞こえてくる。重たく感じられる携帯をやっとのことで耳元まで持ち上げた紅美子は、
「……もしもし……」
 と声を出した。


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