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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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発覚1-1

 ここへくるときは神経が高ぶっていたので、町並みを観察する余裕はなかった。落ち着いて見るとなかなか雰囲気のよい閑静な住宅街ではないか。半世紀以上も前、大規模な区画整理により整然とした街並みに生まれ変わった地域だ。新旧入り乱れて立ち並ぶ上品な住宅が印象的だ。この街に住むことを決めたのは、きっと奈津子だろう。
 スポーツをしたあとのような心地よい疲労感がある。気分は悪くない。おのずと大股になる。太陽の下を歩くのは久しぶりな気がする。朝のセックスが長引いたせいで出るのが遅くなった。もう昼近くになっていた。ともかく金曜日だけは強引に休暇を取った。立場上、他の社員に多大な迷惑をかけていることは間違いない。上にいくほど仕事量が際限なく膨れあがるのは会社組織の宿命ともいえる。社長ともなれば驚異的な体力を必要とする。また気質、性格等並の人種では勤まらない。田倉クラスとてそうだ。怠ればどこかに必ずしわ寄せがいく。
 シャワーを浴びるのがおっくうだったのでそのまま出てきた。指先を嗅ぐと奈津子の匂いがした。たった今したたかに放ったにもかかわらず、再び沸々と性欲が湧きあがる。ずぼんのポケットに手を入れて後ろを振り返る。人の往来がないのを確認してから位置を直す。
 前方から男が一人歩いてくるのが見えた。そっとポケットから手を抜き何気ないふうを装おうとしたが、その男を認めて凍り付いた。男は跳ねるようにして手を挙げている。
「あれ? どうしたのですか、こんなところで」
 遠くの方で大きな声をあげ、佐伯義雄がこちらに向かって小走りで近づいてきた。素早く左右を確認する。横道でもあったら曲がってしまおうと本気で思ったが、ない。他にごまかす手立てがないか視線を巡らせた。その確認は一瞬で終わったわけだが、佐伯から見れば挙動不審に見えたかもしれない。そのあとすぐ、佐伯と目を合わせるよう心がけた。顔がこわばらないように。
「驚いたな、君こそどうしたんだい。こんなところで」
 いつもと変わらぬ声質は出せたと思う。言った内容はともあれ。
「すぐそこにわたしの家があるのですよ」
 佐伯は息を切らし、目を丸くしている。
「ほう、そうかね。この近くにねえ……」と、感心した様子で周辺を見回し「よいところだねえ、この辺りは」とゆっくりと言葉をつないだ。佐伯の最寄りの駅名は何度か聞いているが、ここでは知らんぷりを決め込んだ。相手が焦っていれば、急いていればいるほど逆に冷静になれる。仕事上あらゆる修羅場をくぐってきた田倉は、激情を相手に悟られぬようコントロールできる。佐伯の驚く顔を見ていれば逆に動悸を鎮めることができるというものだ。冷たい汗を背中に感じつつ。
 なぜここにいるのかを聞きたい。佐伯はそんな様相で田倉を見つめ、言葉を待っていた。自分が画策した出張に対し、ねぎらいの言葉すらかけていないことに気づく。
「遠方への出張、本当にご苦労さんだったね」
「ありがとうございます」
 佐伯は小さく頭を下げた。
「思ったより早く終わったんだね。さすがだ、君を派遣してよかった」
「とんでもありません」
「せっかくだから報告をと思ったのだが、自宅がすぐそばだったねえ。だったら後回しにしよう。奥さんが待ちわびているだろうから行ってあげなさい」
 『奥さん』と声に出した時は、こんな状況でも下半身がずくっとした。そんな言葉がでてしまったわりには冷静だった。
「いえいえ、それはいいのです。少し歩きますが駅前の喫茶店でご報告いたします」
 佐伯は顔を赤くした。
「いいんだよ。会社へ行く前に可愛い奥さんの顔でも見てきたらいい」
 その可愛い奥さんと朝っぱらから荒々しいセックスをしていたため、家の中はまだ散乱している可能性がある。今、帰らせるのは非常に困るわけだ。だが田倉は佐伯の性格を熟知している。
「いや、それはあとで結構です。せっかくここでお会いしたのですから。さ、部長行きましょう」
 誘導されたことに気づく様子はない。照れ隠しのように早口で言い、駅に向かって歩き出した。
 これ以上は下手なことを言わぬよう気をつけなければならない。


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