修羅場の後始末-7
「何抜かしやがる…」
言葉とは裏腹に、田代の声に勢いは無かった。
「お前は『これからは賢くならないと生き残れない』と組長に言ってるんだろ。そんなお前はここで死ぬほどバカなのか」
「うっ…」
自分と組の事は調べつくされている。組内でも知性的で通る田代は少し考える風を装った。そして星司の提案に答えた。
「ああ、わかった、降参だ。もうこいつらに2度とさせねえ。だからオレを離して、こいつらを許してやってくれ」
星司はそんな田代に対して、まるで汚物を見るような視線を向けた。
「お前は全くわかってない」
「なんだって?」
「上辺だけで言葉を並べても通じない、お前の本心は、この場を乗り切れば何とでもなると思っている」
「うっ」
図星を突かれた田代に、その場逃れの言葉は続かなかった。
「2度とさせないという事が、どういう事かを教えてやろう」
星司は苦しむ浅見の髪を鷲掴みにすると、強引に引き立たせた。
「ぐうう、やめでぐだざい…」
よろめく浅見の髪を引っ張り、強引に手島と田代の横まで移動させた。
「少し代わって下さい」
星司は手島に声を掛け、田代に突き付けた状態のままで、手島から素早くアイスピックを受け取った。そしてそのまま体も入れ換わり、手島に代わって星司が、田代にアイスピックを突き付けている状態になった。
「な、何をしようってんだ?」
田代が不審そうに言ったが、それは手島も同じだ。手島には星司の意図がわからなかった。訝しんだ手島に星司が、さも当たり前のように指示を出した。
「手島さん、浅見の左腕を折って下さい」
「なんだって!ふざけた事を抜かすな!」
田代が怒鳴った。
「えっ、お、折るんですか?オレが?」
戸惑った手島が珍しく星司に聞き返した。
浅見はそれを聞いて、喚きながら逃げだそうとしたが、手島は取り敢えず抑え付けて動きを止めた。
「そうです、手島さん、あなたが折るのです」
「えっ、で、でも…」
抑え付けた浅見は多少蠢いているが、ほぼ無抵抗な者を前にして、手島は躊躇してしまった。そんな手島に星司は珍しく声を張り上げた。
「やるんだ雄一!お前にはそれをする権利、いや、義務がある!」
「ゆ、雄一…」
星司に自分の下の名を呼ばれたのは久しぶりだった。その意味を考えた手島は星司の言わんとする事を全て理解した。
その瞬間、手島の中から躊躇も戸惑いも消え失せた。
「動くな」
隙をついて逃れようとする浅見の頭を、拳で殴って大人しくさせると、手島は浅見の太い左腕を掴んだ。
「や、やめで…」
怯える浅見の目を涼やかに見ながら、手島は掴んだ左腕を強引に捻った。
ボキッ!
エレベーターホールに続いて、生々しい音と浅見の絶叫がスタジオに響いた。
「うぎゃああああああ」
両腕の骨を折った浅見に対して、手島はもう興味が無くなったかの如く、掴んでいた腕ごと体を突き飛ばした。両腕で体を支える事の出来ない浅見は、顔から床に倒れ、そのまま激痛でのたうち廻った。
手島は天を仰いで、自分のやり遂げた事を胸に刻むと、星司に向かって小さく頷いた。星司もそれに応じて頷き返した。
手島は何事も無かったように星司と入れ換わり、さっきと同じように田代にアイスピックを突き付けた。
星司はのたうち廻る浅見に構う事無く、意識を無くしている啓太の脇に移動して屈みこんだ。そして優子の乳首を散々甚振りつくした啓太の両手を掴んだ。
優子に恐怖と痛みを与えた情景が、啓太の手から伝わり、星司の表情が歪んだ。
星司は少し考えた後、啓太の両手の内、右手からその手を離した。そして後は躊躇する事はなかった。星司は掴んだままの左手の親指を力任せに捻った。
ポキッ!
骨の太さの影響からか、浅見の時よりも少し軽い音が響いた。骨の折れた激痛で目を覚ました啓太が、いきなり絶叫を上げた。
「ぐぎゃあああああ」
その絶叫が浅見の絶叫と重なった。星司はそれに動じる事無く、人差し指、中指と優子の乳首を甚振っていた指を一本づつポキポキと懲らしめていった。
田代は自分の目の前で、弟分が甚振られる様にこれ以上我慢ができなかった。