釣り命!!-4
状況はますます悪化するばかりだ。顔に当たる雨で視界すらままならない。
「クソッ!顔にワイパーが欲しいな…、いや、むしろくじけそうな弱い心にワイパーを!なんてね!」
くだらない事をブツブツ言い続けてもはや10時間。14時になってしまった。当然一匹もかからない。足元に垂らした仕掛けは根がかり多発でもう予備もなくなってしまった。カレイ釣りの竿も風で当たりなんだか分からない。強いメンタルは折れそうになる。ようやく…。
「こりゃ釣れねーわな…」
思わず口にしてしまった本音にハッとする海斗。
「お、俺は今何て言ったんだ!諦めたら終わりじゃねーか!!明日会社でほら見ろといわれるのが嫌でお魚センターで魚を買って釣れたと嘘をつくヘタレ釣りキチに成り下がるのか!?海斗、しっかりしろ!お前はやれば出来る子だ!やるんだ!やってやるんだ海斗!!」
立ち上がった瞬間についつい餌が入った箱を蹴飛ばしてしまった。
「!?」
中から飛びだしたイソメが風に巻い海へとかえって行った。
「え、餌が…」
海斗は全ての餌をなくしてしまった。荒れ狂う海を呆然と見つめていた。アジ釣り用のコマセは仕掛けがないので持っていても意味がない。
「クッソ!お前らプレゼントだ!受け取れ!!」
海に向かってコマセを撒き散らす。
竿を巻き上げるとまだイソメはついていた。
「これは神が与えてくれた最後のチャンスだ。このチャンス、必ずものにする…」
真の釣りキチとは天候などを読み釣行すべきかどうかを的確に判断できる人だという事だって知っている。心の中ではやっぱ来なきゃ良かったという気持ちもない訳ではない。しかし海があり、そこに魚がいる。竿がある。餌もかろうじてついている。その状況で望みを捨てるという選択肢は海斗にはない。
海斗は天に向かい祈りを捧げる。この祈りが通じたのか、海斗の台風釣行には最後の最後で大きなドラマが待っていたのであった。
「神よ、俺にミラクルを…!」
そう叫んだ瞬間、風を切り裂き大きな音が聞こえた。
『バッシャーン!!』
グワッと目を開ける海斗。音のした方向を目が飛び出しそうなぐらいに凝視する。
「来た!跳ねたぞ、魚が!あの音はデカい!!マジでクジラかマグロかか!?一発逆転じゃねーかよ!やっぱ神は俺を見捨てていなかったんだ!!」
全身の毛という毛が逆立つ。海斗は竿を握り締めフルパワーで竿を振る。
「おりゃあ!!」
雨風を切り裂く竿は物凄い撓りを見せ放たれたのであった。
「いっけー!!」
まさに奇跡だ。とんでもない飛距離だ。海斗の釣り魂が常識を覆した瞬間だった。その神がかりなキャスティングが海斗の運命を大きく変える事になるのであった。