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桜の降る時
【初恋 恋愛小説】

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花火の咲く時-3

 「平気?花火始まるけど、行ける?」
 「…。」
 なぜか霞は黙ったままだった。
 「霞?どうした?」
 「蓮。かすみ、って誰なの?」
 何を言ってるんだろう。俺の目の前にいるのは霞自身に間違いない。頭を打ったせいか?ま、まさか記憶喪失とか…?
 「あたしの名前はさくら、だけど?」
 ………。自分の耳を疑った。さくらだって?一体、どうなってるんだ?
 「あたし、なんだかぼーっとしてたみたいで…。よく覚えていないんだけど。花火を見に行くのかしら?だったら早く行きましょ。」
 「え…、あ、うん。」
 わけがわからないまま、俺たちは海岸に下りて行った。
 「ねぇ、蓮。こうして手を繋いでいるなんて、なんだか夢のようね。いつも、家の中ではまともに話すこともできないものね。」
 俺は混乱していた。手を繋いで横にいるのは、さくらなのか?頭を打ったせいで、霞が混乱しているだけじゃないんだろうか?
 花火が上がり始めた。ドォンという大きな音と共に、夜空を明るく染める。
 「綺麗ね、蓮。花火か…。あなたはあたしにとったらまるで花火みたいね。」
 霞じゃない。今、目の前にいるのは霞だけど霞じゃない。中身は…さくらだ。霞は俺のことを‘あなた’とは呼ばない。口調もまるでさくらそのものだ。
 「真っ暗だったあたしの人生を明るく染めてくれた。…花火のようにたった一瞬だったけど…。」
 「さ…くら…。さくらなんだよな?」
 「ごめんなさい。霞さんの体、借りてしまいました。伝えたいことがあったから…。」
 体を借りた?霞は、いや、さくらは何を言っているんだろう?まさか、わかってるのか?今のさくらはこの世にいないはずの人間で、自分の生まれ変わりが霞だってことを。
 「ふふっ。驚くわよね?大丈夫。ちゃんと知ってるから。霞さんはあたしの生まれ変わりなのよね。霞さんはね、気付いていなかったけど、あたしの意識はずっと霞さんの中に残っていたの。いきなり、あたしはさくらよって言ったって信じられないだろうから、わからないふりなんてしちゃってごめんなさい。ずっとね、あなたにも、蓮にも伝えたいことがあったから出てきちゃった。」
 「伝えたいこと?俺にも蓮にもって…。蓮は俺だよ?」
 さくらは俺の目をじっと見つめる。
 「そうね。あなたは確かに蓮だわ。でもね、あたしの愛した蓮ではないわ。名前は一緒だからややこしいわね。あたしの愛した蓮はもうどこにもいない。あなたは生まれ変わった蓮だもの。」
 さくらは悲しそうな目をしながら俺をじっと見つめる。俺の中で、前世の記憶がよみがえる。大好きだったさくら…。
 さくら、と呼ぼうとする俺をさえぎる。
 「まずはあたしの蓮に誤らせて。霞さんの中であたしも聞いてたわ。あなたが桜の下に来なかった、ううん。来れなかった理由を。あたしのせいであなたの人生を壊してしまったのね。ごめんなさい。許して、なんて言える立場じゃないけど…。ほんとにごめんなさい。」
 「さくらのせいじゃないよ。誰も悪くない。」
 前に霞に言った言葉を繰り返した。
 「ありがとう。そう言ってもらえると…少し救われるわ。それからね、あなたにも伝えたいことがあるの。」
 さくらはまるで知らない人に話すように、遠慮がちに話し始めた。そんなさくらの態度と、あたしの愛した蓮じゃない、という言葉が胸を刺す。蓮は俺だ。外見は違うかもしれない。でも、俺はさくらを愛した蓮なんだ。
 「そんな顔をしないで?あなたはあたしの蓮じゃないのよ?あたしは蓮のこと、今だってずっと愛してるんだから。」
 「俺は蓮だよ。俺だってずっとさくらを愛してるんだ。俺はさくらを愛してる蓮だよ。」
 そう言うとさくらはなぜか悲しそうな顔をした。
 「さくらは俺の外見が前世の蓮と違うから信じられないの?」
 「違うわ。あなたは蓮の生まれ変わりなのよ。あたしの愛した蓮ではないの。もう別の人間なの。ただ、前世の、あたしの愛した蓮の記憶を持つ、別の人間なの。」
 でも、と反論しようとする俺をさえぎる。


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