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桜の降る時
【初恋 恋愛小説】

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花火の咲く時-4

 「ずっとあたしを愛してくれてるってことは嬉しいわ。でも、それは前世の蓮の記憶がそう思わせてるだけなのよ。もう前世の記憶に縛られないで。あなたが今、愛してるのはあたしじゃない。霞さんでしょう?中身はさくらだけど、霞さんの姿を目の前にしてもさくらを今でも愛してるって言うの?」
 俺は混乱していた。わからない。俺が愛してるのはさくらなのか?それとも霞?わからない。わからない。
 「あなた…、霞さんのことを好きになったの?それともあたしなの?あたしの生まれ変わりだから、霞さんにひかれたの!?」
 さくらはまるで俺を責めるように強い口調で話す。 俺は…俺は…。
 遠くに花火の上がる音が聞こえる。音がするたびに夜空をぱっ、と明るく染める。
 ―すまない…。俺のせいで…―
 ?。声が聞こえる。どこからともなく。男の声が。辺りを見回してみるけど、霞以外には誰もいない。
 ―俺が生まれ変わっても、さくらを愛した気持ちを忘れたくないと強く願ったから―
 まさか、まさか…。前世の蓮?俺の中にも残っていたのか?
 「大丈夫?蓮さん?どうかしたの?」
 「声が…、蓮の、前世の俺の声が聞こえるんだ…。」
 霞に、いや、さくらに言うというよりも独り言のように呟く。
 ―君の中に、さくらを愛していた俺の記憶を残しすぎてしまったね。だから君は混乱してしまったんだね。俺のせいだね―
 俺は心の中の前世の蓮の言葉に耳を傾けた。
 ―さくらを愛してるのは俺で、君じゃない。前世の記憶と今を混同しないで― 俺は前世の記憶と今をごっちゃにしているのか?霞にひかれたのは、霞がさくらの生まれ変わりだったから?俺が前世の蓮の記憶を持っていたからなのか?もう…わからない。
 「蓮さん…。あなたはあたしを好きになったの?霞さんじゃなくて?」
 言葉がでてこない。
 「じゃ、このままこの体、もらってしまってもいい?霞さんの体。あたし、まだやりたいこといっぱいあるし。」
 「だめだっ!そんなことしたら霞はどうなるんだ!」
 俺はさくらに怒鳴った。考えるより先に言葉がでた。
 「あ…。さくら、ごめん。俺は…。」
 さくらは優しい笑顔を浮かべている。
 「いいのよ。蓮さん。それがあなたの本当の気持ちでしょ?難しく考えないで。あなたは霞さんを愛してるの。あたしじゃないわ。それが正しい答えなのよ。」
 ―そうだよ。君が愛してるのは霞さんだ。俺がさくらを愛したように、君は霞さんを愛しているんだろ?―
 俺の中の蓮が言う。
 霞、霞、霞。霞に会いたい。
 俺は今までにないほど、なぜか霞が愛しく思えた。 「そろそろ霞さんに体、返さないと、ね。蓮さん。どうか霞さんを幸せにしてね。あたしと蓮の分まで幸せになって。それだけ言いたかったの。前世の記憶に縛られないで。あなたたちの今、を大切にしてね。」
 ―蓮。すまなかった。俺のせいでつらい思いをさせたね。俺ももう行くよ。幸せになってくれよ。俺とさくらのためにも。悲しいすれ違いは繰り返さないで―
 蓮がそう言い終えた後、一際大きな花火が上がった。同時に俺の心のなかにもやもやと煙のように渦巻いていた何かが、ぱぁっと晴れていったように感じた。
 花火大会も終わりが近づいていた。花火が連続で上がり、夜空がまるで真昼のように明るく輝く。
 「きれいだね、蓮。花火って不思議だね。見てるとなんか…、現実を忘れちゃいそう。違う世界の出来事みたい。」
 「か…すみ?霞だよな?」
 さくらじゃない。霞が帰ってきたんだ。俺にはわかる。もう…さくらはいない。前世の蓮も。
 「蓮?どうしたの?さっきからぼーっとしちゃって…。花火に見とれてるのかと思ってたけど、なんか変じゃない?」
 霞が不思議そうな顔をしながら俺を見る。霞は何もわかっていないんだ。このことは俺の胸の中だけにしまっておこう。
 「大丈夫。なんでもないよ。ね、霞…。」
 最後の花火が上がる。その瞬間、俺はそっとキスをした。
 「霞。大好きだよ。」
 「…蓮。いきなりなんて反則だよーっ。」
 真っ赤な顔をした霞をぎゅっと抱き締めた。霞、大切にするよ。さくらの生まれ変わりだから、じゃなくて。霞だから。
 
 さくらとの再会もまるで花火のようだった。さくらが言ったとおり、蓮とさくらとの恋のように、花火のような一瞬の。でも忘れられない、心に残る再会だった。それはまるで、真夏の夜が見せてくれた幻だったのかもしれない。


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