半人半蛇のいにしえの種族のお嬢様は甘いものには目がありません-1
ラミアは半人半蛇の獣人だ。
人化の術で見た目は蛇人だとはわからない。
たまに酔っている彼女をナンパした男が、宿屋に連れていき不埒なことをしようとすると、蛇の下半身が唸りを上げて男を壁に叩きつけたりする。
締め上げて全身の骨を砕いたりとかはしない。
なぜラミアが人に化けてアルリギス王国を旅しているかというと、アルリギス王国が建国される以前のまだ人間が国ではなく集落ごとに暮らしていた頃まで話からしなければならない。
ラミアは八人兄妹の末っ子で七人の兄がいた。
人間が集落で暮らしていた頃から異界の森はあった。
ラミアの父親は半人半蛇ではなく大蛇の姿で森を出て散歩をしていると、人間たちが喧嘩しているのを見かけて、見物するために近づいたのだった。
白い大蛇が自分たちを見下ろしていると気づいて、人間たちは喧嘩を止めてひれ伏した。
大蛇が「なんで喧嘩をしていたのか?」とたずねたが怯えているだけで誰も答えないので、のそのそと森に帰っていった。
すると翌年から、森のそばに人が置き去りにされ始めたのだった。
大蛇は置き去りにされた女にたずねると「蛇神様の生け贄にされたのです」と泣きながらいうので「帰れ」と言った。
「帰れません、帰れば何をされるかわかりません」と言われて、しかたなく森に連れて帰ることにした。野犬やゴブリンがうろうろしている森のそばに置き去りにはできないと大蛇は同情してしまったのだ。森の岩山の洞窟、巣穴に女を連れて帰った。
大蛇と森で暮らしていた女は、満月の夜になると呪いで人の姿になってしまうと、恥ずかしそうに苦笑する青年に惚れてしまった。
八人の女たちは集落から追い出された女たちで、大蛇が人を喰らうわけではないとわかると、森で暮らしてそれぞれ一人ずつ孕んだ。
女たちは卵を生んだ。
さらに生け贄の女たちは増えていく。病にかかった者や怪我をして手足が不自由な者など、集落で働き手とならない女や子を産めない女などが生け贄にされた。
女たちは森で協力して暮らした。
大蛇と卵を生んだ八人の女たちが老いて死ぬと、卵が七つの卵が、毎年一つずつ孵化した。七人の男子が生まれた。七人の男子は成長していった。
森にはオークやトロールがいて、成長した七人は生け贄で集落から捨てられた女たちを敵から守りながら暮らした。
七人にそれぞれ惚れた女たちが妻となった。
その妻たちは卵を産まなかった。
その七人と女たちが死んだが、残された最後の卵は孵化しなかった。
残された女たちが森から離れるか、森で暮らすか話し合っていると、剣を手にした男が蛇神討伐にきた。
集落から森に女たちを勝手に追放したのに、蛇神が生け贄を要求したことになっていた。
男は森に残ると言った女たちを殺害した。やがて森から出ていくと言った女たちを連れて、卵を戦利品として持ち帰り、集落をまとめて王となった。
その卵は頑丈で、また代々の王に受け継がれていた。
その卵から孵化したのがラミアである。
最後の卵から孵化したのは女子であった。
骨董品や化石や石器などを集めている貴族がいた。その貴族は博物館を建て、他の貴族にコレクションを自慢していた。
その博物館に落雷があり、展示されていた竜の卵の化石に直撃した。竜の卵と思われて展示されていた獣人の卵から3pほどの白蛇が孵化して、博物館から逃げ出したのである。
いにしえの種族であるラミアは満月の夜には蛇の姿になるが、普段は半人半蛇の姿を隠して、人の姿で旅を続けている。
ラミアはクッキーなどお菓子が好きで、果実のジャムなども作れる。
宿屋や酒場などでウエイトレスをして、各地の美味しいものを探しながら旅を続けている料理の名人。
小さな蛇が迷いこんだのは子供のいない夫婦の食堂で飼っていた猫にくわえられて、夫婦の前に運ばれてきたのだった。
夫婦は女神に子供を授けてくださいと毎晩祈りを捧げて暮らしていた。小さな白蛇を黒猫が食べてしまわなかったことに感謝した。
少女のラミアに言葉を教え、料理に興味がありそうだと気づくと、卵焼きから教えた。
「つらかったら、いつでも帰ってこいよ」
「好きな人ができたら連れてきてね」
「ニャー」
夫婦と黒猫に見送られてラミアは旅に出た。
半人半蛇の正体がばれたら、サーカスでみせものにされたり、剥製にされてしまうかもしれないと夫婦は心配した。
だが、貴族令嬢と平民の料理人がかけ落ちして一緒になった夫婦はラミアが旅をしたいと言い出すと、女神にラミアにも一生を一緒に生きていきたいと思える相手、そしてラミアが獣人でも愛してくれる相手と出会えるように祈りを捧げたのだった。
ラミアが旅に出てから、黒猫は仔猫をつれて歩く母猫になった。仔猫たちは夫婦の店の裏でミルクをもらい育っていった。
ラミアと同じ蛇の獣人がまだいるのか。
それとも人と交わり卵を産むのか。
わからないことはラミアにもたくさんある。
不安で泣きたい夜もある。
それでも旅を続けている。
かつて蛇神と呼ばれた大蛇と古代人のハーフのお嬢様ラミアの夢は、旦那様に料理を作り「おいしいね」と褒めてもらうことである。