運命の銃弾-7
緊迫感と痛みからが、田口は額に相当汗をかいていた。しかし若菜の体に汗は見当たらない。涼しげで冷たい表情で田口を見つめている。
「すかしてんじゃねぇぞ!」
田口は若菜に向けて発砲する。しかし神経が研ぎ澄まされている若菜には不思議な現象が起きる。田口が引き金を引いた瞬間、外れる…、そう確信したのであった。実際に銃弾は若菜の右頬を数センチ外れて通過した。
「震えてるんじゃないの?私が怖い?女が怖いのね…?可哀想な坊や…」
「そんな訳ないだろう!」
続けて発砲した。今度は外れる予感がしなかった。しかしなぜだろう、銃弾がスローモーションのようにゆっくりと自分の顔をめがけて飛んでくるのが見える。若菜は首を45度傾ける。銃弾が顔の横を通過するのがはっきりと見えた。
「な、何…?」
目を疑う。まるで銃弾が見えて交わしたように見えた。
「んな訳ねぇ!避けられる訳なんてねーじゃんかよ!!」
続けて発砲した。若菜には確実に見えていた。傾げていた首を元に戻すと右頬の横を銃弾が通過していった。
「う、嘘だ!あり得ねー!!」
目を丸くして驚く田口。人間業ではない若菜の動きにジリジリと後退する。
「結局あなたも湯島武史も女が怖かったんじゃない。もともと気の弱いいじめられっ子。女に勝つには力ずくで抑え込むしかできなかったひ弱な男だったのよ。苛めに加担した女も悪いわ?でもね、何の関係もないか弱い女を手にかけてきたあなた達に反論する資格はない!どれだけの罪のない女性の人生を狂わして来たか…、2度と街を歩けないほどの恥ずかしい姿を世間にばらまれたか、どれだけの愛を踏みつぶしで来たか…。そんなあなたに私が裁きを下す。」
「な、なに…?」
若菜の両手が動く。既に右手に握らているLADY GUNは静香から受け継いだものだ。そして左手に握られたLADY GUNは父親である正芳がいつか刑事になった娘へ送ろうと決めていたものだ。重量以上の重みを感じる。きっとそれは正芳と静香が人を殺そうとしている若菜への抵抗の重みだ。若菜は2人に呟く。
「ごめんなさい…」
と。そして腕を上げゆっくりと銃口を田口に向ける。
「や、止めろ!!」
怯えながら叫ぶ田口。
「ダメ!!上原さん!!」
杏奈の叫びも確かに聞こえた。しかし若菜の意志は変わらない。
「私の裁きは…死刑!!」
銃弾より先に冷たく鋭い視線が田口の体を貫いた。
「や、止めてくれ…!頼む…!」
田口が震え失禁している事にも気付いた。しかし若菜の表情はピクリとも動かない。
「殺される者は、みんなそう言うわ…」
今まで自分に犯されてきた女にいつも言い放っていた言葉が浴びせられる田口。その姿こそ幼い頃に女の子から虐めを受け怯えていた本来の田口徹の姿なのであった。そんな田口の本当の姿を見ながら若菜は田口徹に審判を下す。
「さようなら…」
それは田口に向けられた言葉なのか、刑事としての自分に向けられた言葉なのかは分からない。指により引き金が引かれた2つのLADY GUNは悲しみの発砲音を響かせ、田口の体を貫いた。額の中央と忌々しい男性器を銃弾は貫いた。田口から飛び散る血潮、白目になり床に崩れ落ちる体、床に流れる血…瞬きもせず、若菜は全てを目に焼き付けていた。
「先輩…、お父さん…」
若菜は瞳を閉じて天井を向きながら2人の顔を思い浮かべていたのであった。
若菜の復讐は終わった。田口徹を殺害…、同時に刑事としての自分をも殺した運命の瞬間だった。床に染みついた静香の血に若菜の涙がこぼれ落ちていた。