無謀3-2
「もしもし」控えめな奈津子の声。続いてイヤホーンから洩れてくるような声が聞こえた。向こうが話している内容はわからない。田倉がスーッと鼻息をもらしたので奈津子が首を振る。
「ええ、大丈夫です」
奈津子が何度か聞き返す。佐伯はどこかの店にいるようだ。
「ううん、連絡なんて全然ない」
娘のことだ。修学旅行先から親に電話することはないだろう。
先端部で粘膜を刺激すると奈津子の腹筋が震える。望んだ状況ではあるが興奮の度合いにさほど変化がない。この状況での期待感が薄くなっているのを感じていた。奈津子の体さえ抱ければいい。名器の膣にきつく包まれたい。
「……ごめんなさい、なんて言ったの」
髪にキスをすると首をすくめた。いやがるように首を振るが田倉はそれを許さない。体の密着度を強めていった。奈津子はフーッと息をはいた。
「あちらは気さくな人が多いのね」
思った以上に声色は落ち着いている。
「あなたは人見知りがあるから、よかったわ」
うなじに口づけをしていた田倉は動きを止めた。奈津子がクスリと笑ったのだ。口元を見ると笑みさえ浮かべて。
「ふーん、そうなの。何人くらいで飲んでいるの」
性器をじゃれ合わせるのはやめて先端をぬめり込ませていった。避妊具を付けるつもりなどない。射精が間に合わなければ、それでもよいと思った。
「飲んだ朝でもちゃんと食べてくださいね」
ツルッと先端が収まった。奈津子は受話器を押さえ、「うーん」と唸った。
先っぽを入れただけでこんなに気持ちがいい。会話しながら奈津子がペニスを抜こうと腰をずらしたので、体を強く引き寄せて動きを封じた。そのまま構わず腰を進めてズブズブとペニスを入れていった。
「あふッ」
夫に声を聞かれないよう、奈津子はケータイを遠ざけた。ぐるっと首を回し、すねるような表情で田倉を甘くにらんだ。ざらりとした膣内の感触がまとわりつく。快感が脳髄を刺激する。
「ええ、夕食は簡単に済ませました。一人だとあまり作る気がしないから」そんな嘘をついた。
ゆるりとした出没運動を始めると、手でケータイを覆い、息をつないだ。
「ああん」
ケータイのマイクは手で押さえているが、甘えるような声に田倉の方が面食らった。膣は驚くほど濡れている。
「どこで電話をしているの。誰もいないところ?」
ケータイからしゃわしゃわと音がしたあと「あまり長く席を外していると、お客さんにも悪いから……ッ……」
リズミカルに出没運動を始めたので奈津子の声が途絶える。雑音のような音の中、『もしもし、どうしたの』と佐伯の声が聞こえるような気がした。
「ううん、何でもない。それより、たくさん飲まないようしてください」
この状態でもうろたえることもなく夫の気を遣っている。自分のことではないのは分かっているが、『それより』といった言葉に田倉は反応した。最奥に届くようなストロークを与えると、とうとう海で溺れたような表情になった。笑う顔を見られないよう細い首をつかみ、パンと腰をぶつけた。
「はうッ」
のけぞらせた小振りの後頭部が、あごや首、胸に当たる感触がたまらなく好きだ。美少女の娘の顔もとても小さかったのを思い出す。
「大丈夫です……ええ、そうしてください。わたしの方は大丈夫だから……え? ううん、誰もいないわ。誰がいると思ったの」
奈津子をオーガズムに導くようなセックスを常に心がけている。だが今は何の前触れもなく襲ってきた、強烈なエクスタシーを制御することができなかった。慌てて腰を引きペニスを引き抜くと、ケータイを持っていない方の手がすっと伸びてきた。
「……そんなことはありません。皆さんお酒強そうだから、一緒になってたくさん飲まないでね」
淫らに広げられた股間からそそり立たせ、側面をぬたつく部分に宛がい――射精を始めたペニスをしごき始めたのである。
睾丸の付け根から中央まで規則的に往復させ、自分の体に精液がかかるよう角度を調整しつつ会話を続けていた。発作が終わってからも刺激を与えられ、しばらくしてから、ピュッピュッと先端から二度、三度と飛沫した。根こそぎ持って行かれるような快感にこらえきれず、乱れた呼吸を奈津子に聞かせてしまった。
「……そうしてください。じゃぁ、お休みなさい」
通話を切ると奈津子はクルリと向きを変え、二人の体の間にはさまれたペニスを両手で握り直し、甘えるような仕草で胸に唇を押し当ててきた。
最後の方の奈津子の会話は、ほとんど覚えていなかった。