な-4
そして数分後。昨日と同じようにあたしの部屋のドアが静かに開いた。
「は、な」
あたしの名を呼んだ駿ちゃんは布団の端に腰かけて
夢ごめん。と言う。
あぁ・・・・
昨日の繰り返しだ。
あたしの心が小さくつぼんだ。
今さっき洗ったばかりの冷たい手が
優しくほほを撫でる。
冷たくてビクッとしないようにするのが精いっぱいで。
そのまま本当に触れるかどうかのキスをした。
ゆっくりと頬から手を離して。
ゆっくりと私から身体を離した。
ほのかなお酒の匂いがして。
ああ、駿ちゃん飲んできたんだ。
私がいるのに早く帰ってきてくれなかったんだ。
今日は最初の夜なのに。
飲む時間があったら帰ってきてくれてもいいのに。
そんなことを言う権利なんて微塵もないのに。
それでもそう思っちゃうあたしは、わがままなのかな。
無理やり押しかけた同居だから。
あたしには何も言う権利なんてないから。
声にはもちろん出せなくて。
でも、涙だけはあたしが止めるのも構わずに
ずっとずっと流れた。
カチャンカチャンと食器にスプーンが当たる音がして。
あぁ、あたしが作ったご飯。食べてくれてるんだ。
それが嬉しくて、悲しかった。