ワインのあとで-2
その夜、聡美は寝付けなかった。
来客用に和室に用意してくれた寝具のせいではなかった。
寝具は新品のように清潔で良い匂いがした。
外は激しい風雨となっていた。
その音のせいかもしれなかった。
ワインの酔いによる身体の変化のせいかもしれなかった。
頭が火照ったような感覚だったからだ。
しかし、何よりの原因は、先ほどからの自分ではコントロールしがたい感情のせいだった。
この家へ来る途中、クルマの中で見た娘を抱く佐和子。
バスルームへ向かう途中で見た娘と添い寝する佐和子。
それらの残像が聡美の脳裏に焼きついて離れない…。
佐和子は自分の寝室で眠りに落ちかけていた。
しかし、眠ってしまう前に、扉をノックする小さな音を聞いた。
扉を開けると聡美が申し訳なさそうに立っていた。
「どうしたの?聡美。眠れないの?」
聡美はコクリとうなずいた。
そのしぐさに、どことなく我が子の琴音に通じるものを感じた。
「分かったわ。そっちに行きましょう」
二人は、暗がりのなかを聡美の客間に移動した。
ふとんの上にペタンと座った聡美が、佐和子にお願いした。
「佐和子さん。琴音ちゃんだけズルい。私も佐和子さんに甘えたい」
聡美は先ほどのワインの酔いが残っている様子だった。
佐和子には何となく、こうなる予感があった。
「いいわよ。一緒に寝ようか」
佐和子は優しく応じ、二人は薄い掛布団のなかに横になった。
聡美は、佐和子のパジャマの上から胸に顔を押しつけ、思い切り深呼吸する。
パジャマの柔らかい布を通して乳房の温もりを感じる。
「あぁ〜、いい匂い…。お母さんの匂いがする」
聡美は佐和子に母を感じていた。
そして、佐和子も気づいていた。
聡美が自分に母親を重ねて見ていることに。