赤玉絶頂のその裏で-3
瓶之真はダラリと下げた手をピクピクと震わせながら、門弟達の背中を見送った。そして最後の1人が敷地を出た気配を察すると、震わせていた手を瞬時に動かしイチモツを握りしめた。それはまるで西洋のガンマンの如き素早さだった。
瓶之真は、急いでもう一度開かれた引き戸から首を突っ込み、握りしめたイチモツをシコシコとしようとした途端、またしても邪魔が入ってしまった。
「先生、昼餉の用意ができましたよ〜」
母屋から聞こえてくる賄い女のお熊の声のがなり声に、瓶之真は苛立ち「ちっ」と舌打ちをした。その半面、お熊にこの姿を見られなくて安堵もしていた。
性欲旺盛の瓶之真が唯一そそられない女、それがお熊だった。容姿についての優劣は個人個人の趣味嗜好が有るので、今回は『名は体を現す』と表現するにとどめ置くことにする。
自慰愛好家の瓶之真にも、時折、実際の男女の交わりがある。滅多にない事なので、そんな時の瓶之真は興奮の余りに直ぐに逝きがちだ。そんな時にお熊の容姿を思い浮かべて、射精感を制御する事がよく有った。
瓶之真にお熊の容姿を上手く利用する事で重宝はしていたが、反面、強く思い浮かべ過ぎると、射精の瞬間に脳裏を過る事がある。滅多にない男女の睦みにこれは悲劇以外何物でもない。瓶之真にとってお熊は両刃の剣だったのだ。
瓶之真に毛嫌いされていたお熊だったが、何を隠そう人妻だった。そんなお熊はよく夫婦間の営みの愚痴を瓶之真の前で吐きだしていた。(想像するのもオゾマシイ)と瓶之真は耳を塞ぐが、聞きたくも無いお熊の愚痴を纏めると、お熊の夫の留吉は夫婦になって以来、慢性的は勃起不全になったそうだ。
さもありなん、遠い夏祭りの日、大人しい留吉に半ば脅かしながら飲めない酒を強引に飲ませ、泥酔する留吉を無理矢理犯して既成事実を作り、そのまま留吉の家に居座ったお熊の逸話は近所では有名だ。
人生を諦めきった留吉の顔を思い出す度に『武者修行に出ていてよかった』と瓶之真は心底思った。
武者修行の動機の半分は、毎日付き纏うお熊から逃げ出すために家を飛び出したようなもんだ。もし、武者修行に出て居なかったら、今頃、瓶之真が人生を諦めた表情を浮かべていたかもしれない。
そんな慢性の欲求不満であるお熊の獲物は瓶之真だ。上目づかいでぱちぱちと色目を使われると悪寒が走る。普段から極力視線を逸らしてかわしはするが、少しでも視線を合わすと脳裏に刻み込まれる。そんな夜は流石の瓶之真も妄想を駆使する事ができず、幾度もお熊の顔が脳裏に過り、心地よい射精を味わう事が出来ない。
自慰愛好家の瓶之真は、そんな日の翌日に辞めて貰おうと思いはするが、先代の頃からの賄いを今更辞めさせる訳にもいかない。それよりも何よりもほぼ無給に近い金額で働いてくれているのだ。貧乏道場主としては我慢するしか無かった。
お熊の呼ぶ声に、瓶之真は握っていたイチモツから手を離した。直ぐに行かないと探しに来るかもしれない。
「まあよい、今晩からシコシコでは無く、直にお満の女体を楽しめるのじゃからな。うひ、うひ、うひひひひ」
瓶之真はお満のやや開いた割れ目を名残惜しそうに一瞥すると、食事を摂りに母屋へと帰っていった。
生理前なのか排卵日なのか知りたくは無いが、今日のお熊の給仕には瓶之介は辟易していた。
「せんせ〜、今日は一段とアチコチで栗の花の匂いがしますよ。やあねえ、何をしてらしたんですかあ」
食事が終わり、獣並みの嗅覚を持つお熊が、鼻をフゴフゴさせて変なしなを作った。そのまま上目づかいで寄り添い聞いてきたので、瓶之真はゾクリと身震いした。
「ひぃぃ!」
瓶之真がもたれかかるお熊の体をかわそうとして体をずらした。
その時、奇跡とも呼べる偶然が重なった。
体を捻った事で、いまだに勃起中の肉棒がポロリと出てしまい、体をかわされた事で重心が狂ったお熊の藁をも掴もうと振りまわした手にそれが触れた。
当然ながらお熊は獣並みの本能でギュウッと掴んだ。