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雨が雪に変わる夜に
【女性向け 官能小説】

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失踪-3

 亜紀のアパートの前に夏輝が到着した時、丁度遼も息を切らしてやってきた所だった。
「秋月さん、ずぶ濡れじゃないですか」夏輝が驚いて言った。
「交番出る時は降ってなかったからね」
「みぞれ交じりですよ? 風邪ひきます」
「大丈夫。僕のことは心配しないで」

 遼はアパートの階段を駆け上がった。そして亜紀の部屋のドアをノックした。
 すぐに拓海が顔を出した。

 遼の足がすくんだ。

 短い金髪。ひょろりと背の高いその人物……。

「ああ、お巡りさん……」拓海はひどく嬉しそうに遼の顔を見つめた。

「北原さん!」遼の背後で夏輝が叫んだ。「亜紀さんからは」
「まだ何の連絡もありません」
「あ、あの、あなたは……」遼が恐る恐る口を開いた。
「北原って言います。亜紀のいとこです。先週から家の用事で彼女を訪ねてるんです」

 遼は拓海の胸のふたつの膨らみをちらりと見て、安心したように小さなため息をついた。

「そうでしたか」遼は張りのある声で言った。「心当たりのある場所とかは……」
「わかりません。でも、亜紀、今日は朝から会社に辞表を出して、引っ越しのために市役所とかに行くって言ってました」
「引っ越し?」
「実家に帰る……って」拓海は遼の肩越しに彼の同僚、ポニーテールの警察官夏輝を見た後、決心したように言った。「亜紀を抱いてやって!」
「えっ?!」
「見つけたら、あの子を抱きしめてやって! お願いです。遼さん!」
 背後で夏輝が叫んだ。「探しましょう、秋月さん」


 遼と夏輝は表通りで二手に分かれた。
「何か手がかりがあったら、すぐに連絡を」遼は夏輝にそう言い残すと、すぐに彼女に背を向けて駆けだした。


 冬の身を切るようなみぞれ交じりの雨が容赦なく遼の身体を制服ごと濡らしていた。帽子からも、襟足からも、コートの裾からも雫がしたたり落ちるほどに彼はずぶ濡れになっていた。

 街の中を走り回り、彼は亜紀と一緒に訪れたことのある店を、映画館を、ジュエリーショップを、喫茶店を訪ねた。びしょ濡れになったその警官を、街の人びとは一様に怪訝な顔で見やった。アーケードを走り抜ける遼の姿を、道行く人は何か事件でもあったのか、と不安そうに目で追った。

 雨に打たれ、亜紀を探して、遼は無我夢中で町中を走り回った。

「亜紀、亜紀……」

 知らず知らずのうちに彼は、その愛しい女性の名前を呟き続けていた。

 交差点の信号機の前で、遼は胸を押さえて立ち止まった。
 交差点を右折してくる車のヘッドライトがアスファルトの水たまりにぎらぎらと反射して、思わず遼は目をつぶった。その車が水しぶきをあげながら通り過ぎた時、彼は瞼を開いた。
 遼は大きく荒い呼吸を落ち着かせながら、ふと腕時計に目をやった。曇った文字盤を濡れた指で拭った彼は、はっと思い立ち、顔を上げた。

 ――時計の針は8時を指している。

「も、もしかして……」

 信号が変わると、遼は『シンチョコ』の方角に向かって狂ったように駆けだした。


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