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雨が雪に変わる夜に
【女性向け 官能小説】

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失踪-2



 明くる日。1月14日、水曜日。
 拓海が目を覚ました時、ベッドの上の布団はきちんとたたまれていた。
「えっ?!」
 拓海は飛び起きた。「も、もう出かけたのか? 亜紀ンこのやつ……」
 枕元に書き置きがあった。
『ごめんね、タクちゃん。冷蔵庫に缶コーヒーがあるけど、朝ご飯は近くのコンビニででも調達してね』


 昼前の電車で帰る予定にしていた拓海は、亜紀がなかなか部屋に帰ってこないので、動くことができないでいた。何度も亜紀のケータイに電話やメールをしてみたが、電源が切られているようで、一度も繋がらなかった。
「何やってやがるんだ、あいつは……」
 拓海は少しずつ大きくなる不安と胸騒ぎを感じ始めていた。


 陽が落ちた。辺りはどんどん暗くなっていく。
 拓海は心配になり、亜紀の会社に電話をした。受付の女性が対応した。電話は営業部に回された。そこの部長がしわがれた声で応えた。
『薄野さんは、今日会社を辞められました』
「あの、彼女は……」
『辞表を出されたのは、朝です』
「亜紀は、今どこに」
『そんなことは解りかねます』
 ぷつっ、とあっけなく電話が切られた。


 外は真っ暗になっていた。ぱらぱらと軒を打つ雨粒の音が聞こえ始めた。

 拓海は居ても立ってもいられず、警察に電話した。
 二丁目の交番の女性警官が対応した。
「人を探して下さい」拓海は焦ったように言った。
『あなたのお名前を』
「北原拓海です」
『お住まいは?』
「い、今従姉妹のアパートに来てるんですが、その従姉妹が朝から帰らなくて」
『その方のお名前は?』
「薄野亜紀」

 相手の女性警官は一瞬絶句した。

『女性の方ですね? 年齢は?』
「26です」
『その方の出て行かれた時の服装、体型、所持品など、わかる範囲で教えて下さい』

 それから拓海は思いつく限りの亜紀の情報を事細かく警官に伝えた。
『ご心配なく。責任もって動きます。北原さんへの連絡方法は?』
「今、かけている、この番号です。えっと、080……」
『大丈夫。わかります。着信履歴に残っていますから』
「よろしくお願いします、お巡りさん」
『そこの住所、おわかりですか?』
「はい、えっと、確か楓二丁目12の……」
『アパートの名前は?』
「コーポ『スカーレット』です」
『わかりました。それで十分です。あなたはそこから動かないで下さい。もし薄野さんが帰ってこられたら、この電話にご一報を。必要があれば、そのアパートに誰かよこします。何か動きがあったら、私からも逐一ご連絡します。』
「は、はい」

 電話を切った後、その警察官夏輝は掛かってきた拓海の電話番号を急いでメモした。それから入り口近くの無線機に手を掛けたが、元に戻し、自分のケータイを取り出してボタンを押した。
「秋月さん!」
『ああ、日向巡査。どうしたの? そんな大声を出して』心なしか遼の声は沈んでいた。
「今、どこにいらっしゃるんですか?」
『アーケードをパトロール中だけど……。なんで無線使わないの?』
「亜紀さんが行方不明です」
『な、何だって?!』遼は大声を出した。
「たった今電話が」
『ど、どうしてそんなことが? 通報があった? 誰からか』
「今、亜紀さんのアパートを訪ねていらっしゃってる従姉妹の方からの通報です」
『いとこ?』
「はい」
『僕は亜紀のアパートに急行する。事情を訊きに』
「そうして下さい。あたしも向かいます」

 夏輝は通話を切って、奥にいた巡査部長に事の次第を伝え、雨合羽をロッカーから取り出し、身支度をして交番を飛び出した。


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