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雨が雪に変わる夜に
【女性向け 官能小説】

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再び-1

 亜紀は大きなプラタナスの木の下に佇んでいた。葉を落としてしまっているその木の枝から、ぽたぽたと亜紀の身体に冷たい雫が降りかかった。ぞくぞくとした寒気が背筋を走り抜けた。彼女は思わず木の下に置かれた真新しい木製のベンチに座り込み、背を丸めてうずくまった。

「亜紀!」

 鋭い叫び声が間近で聞こえた。それは、今、その瞬間に亜紀が待ち望んでいた声だった。

「亜紀!」遼はもう一度叫んだ。そして彼女の前にやってくると、腰を屈めて、その女性の肩を抱きかかえた。

 遼に腕を取られてよろよろと立ち上がった亜紀は、そのずぶ濡れの若い警察官を見上げ、叫んだ。「遼っ!」

 ばしっ!

 亜紀は右手で遼の左頬を力任せに殴った後、彼の身体を力一杯抱きしめ、夢中で唇を遼のそれに押し当てた。
 遼も亜紀の濡れて氷のように冷たくなった身体を固く抱きしめ、彼女の頭を自分に押しつけながら、激しく唇を重ね合わせた。

 遼がかぶっていた帽子が地面に落ちた。

 冷たい雨に混じって、凍えた心を溶かすような温かな雫が、亜紀の頬にも、遼の頬にも伝って幾筋も流れ落ちていった。

 口を離した亜紀は、遼を睨み付けて言った。「ばかじゃないの? びしょ濡れじゃない!」

「君だって!」


 店の後かたづけをしていたケネスは、ふと窓から外の駐車場に目をやった。その一画を見たケネスは、レジの傍らにいた妻マユミに慌てたように言った。「マーユ、バスタブにお湯、張ってあるか?」
「うん。もう一杯になってる頃だと思うよ、ケニー」
「そうか」
 ケネスはすぐに入り口から外へ走り出た。そして表のプラタナスの木の下で抱き合っている二人に声を掛けた。
「そこのお二人さん!」
 遼と亜紀は振り向いた。
「アツアツなんは結構なことなんやけどな、そのままラブシーンやってたら間違いなく風邪ひくわ。早う中に」


 遼と亜紀を店の中に連れ込んだケネスは、マユミに早口で言った。「この二人をバスルームにたたき込んだって」
「わかった。こっちよ遼君」
 ケネスは続けて菓子作りのアトリエに向かって大声を出した。「健太郎! おまえの服、用意したって。スウェットか何かあるやろ。真雪にも声掛けてな」
 奥から返事が聞こえた。「わかったよ、父さん」

 マユミに促され、店の奥に続く通路を歩きながら、遼は夏輝に電話をした。
「日向巡査、家出人薄野亜紀さんを確保しました。北原さんにも伝えて下さい。今一緒に『シンチョコ』に居ます」
「『確保』って何よ……」亜紀が恥ずかしげに言った。「せめて『保護』って言って欲しいな」
「ほんとだよ」先を歩いていたマユミは笑った。


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