亮子という女。-2
若菜はそっぽを向いた亮子の前に行き、そのまましゃがみ顔を寄せて言った。
「ねぇ、クリスティーン王女…?」
「あっ!?」
イラっとする亮子。若菜は鳥肌が立つような冷たい笑みを浮かべながら話しかける。
「もしあなたが警察に捕まった事がバレたら田口はどうすると思う?」
「し、知らないわよ!そんな事!」
「あなたを逮捕しても田口は別に困らないわよねぇ?他の売人見つければいいんだしね。可愛くてセックス好きな若い子なんて世の中にはたくさんいる。そしたらあなた、用なしね?」
「…何が言いたいのよ…!」
「分かるでしょ?クリスティーン王女さま。」
「そのクリスティーン王女っての止めろよ!」
若菜は表情を変えずに続ける。
「田口はたくさんの女を売人として使おうとして、でも役に立ちそうにない女の子は膣楽園で働かせたんじゃないの?クリスティーン王女みたいに使えそうな女の子は街に出て売春しながら麻薬を広める。今ね、あなたの携帯に入ってる番号を全部調べてるのよ。何でだか分かる?」
「麻薬密売で捕まえる為でしょう?」
「そう。それもあるけど、他に理由があるのよ。」
「何だよ、他の理由って…。」
若菜は更に冷気のある笑みを浮かべて言った。
「田口に消される前に保護しようとしてるのよ〜。だって替えはたくさんいるんだし、警察にマークされた駒なんて邪魔じゃない?余計な事を取り調べでペラペラしゃべられたらウザくない?クリスティーン王女が捕まった事が知れたらあなたが関係する子達、みんな殺されちゃうじゃない。だから早めに見つけようとしてるのよ。そして一番重要な人物…、この地域を仕切っていたクリスティーン王女が一番邪魔よね?誰よりも重要な情報を握ってるもの。例え警察で保護してても何とかしてクリスティーン王女の口を塞ぎたいはず。もしかしたら警察にも田口のスパイがいるかも知れない。田口は本当に手強いからね。もしクリスティーン王女が捕まったのが知れたら、明日の朝にはあなた、殺されてるかも知れないじゃない?」
「こ、殺される…?」
顔が強張る亮子。田口なら例え警察にいようがどこにいようがどんな手を使ってでも自分を殺す事は可能だと感じた。
「暗殺…、まさに王女暗殺ね。暗殺されちゃうのかなぁ、クリスティーン王女…。」
「し、死にたくない…、私まだ死にたくない…」
散々悪態をついていた姿はもはや消え失せていた。若菜はニヤリと笑う。
「だからね、あなたが逮捕されてるのを気付かれるとマズいのよね。さっきあなたにメールが来たけど、私がなりすまして返信しておいたわ。でも田口は馬鹿じゃない。ちょっとした文面の違いで違和感を覚えるかもしれない。だから田口からメールが来たら指示通り打って返信してよ?いい?」
「…」
躊躇う亮子の肩をポンと叩き言った。
「死にたくないよね…?」
「…うん…。」
そう答えたのは、若菜の顔から伝わる狂気を感じたからだ。人を脅す時のいやらしさ…、そんな穏やかなものではない。まるで人を殺す寸前のような恐ろしいものを感じたからだ。あまりに怖くて亮子は若菜の目を見ていられなかった。