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キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい
【ファンタジー 官能小説】

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血のように紅く 闇のように黒く 雪のように白い-3


「くそっ!」

 ディキシスは、自分の足元へ伸びてきた十数本のツル草を、まとめて切り裂いた。
 番人から貰った漆黒の剣は、硬い鉱石木さえも断ち切れ、錆び付くことも欠けることも無かった。
 だが、ディキシスがどれだけ素早く斬ろうと、ツル草は無尽蔵に這い伸びてくる。自分がからめ取られないようにするので精一杯で、レムナのところまで走れない。

「キルラクルシュ!! 我々まで、巻き込むな!」

 ツル草は、吸血鬼たちまでも縛り上げていた。四人まで減った黒衣の吸血鬼たちは、各々の魔力でツル草を操ろうとするが、外しかけてもすぐに再び絞めつけられている。
 ラクシュは相変わらずの無表情だが、頬や額には汗が浮んでいた。広範囲のツル草を操り、どれも手ごわい相手を複数同時に捕らえるのは、彼女にしても容易な作業ではないのだろう。
 流れる汗の量が次第に増し、細い眉がわずかに歪む。

 そして不意に、ツル草のざわめきとは違う音が聞えてきた。不気味な轟音は、地面の底から沸きあがるように響き、地面全体が小刻みに振動する。

「キルラクルシュ! これ以上、ツル草を引っ張るな!!」

 吸血鬼たちが青ざめ、いっせいに声を張り上げた。
 しかし、彼らがもがくのを止めない以上、ラクシュも止める気はないらしい。
 次の瞬間、ディキシスの足元で、地面が大きく盛り上がった。

「っ!?」

 レムナ、アーウェン、吸血鬼……ラクシュの周りでさえも、次々に地面が隆起していき、土埃の中から、かさついた鱗状の太い枝が浮かび上がってくる。

「鉱石木!? なんで!?」

 手足をツル草に絡まれたまま、レムナが驚愕の声をあげた。



 ―― その昔。地面は今よりも遥か低い位置にあり、陸よりも海の方が広かった。
 天から降ってきた巨大な岩石群と、繁殖した鉱石木が、地面を高く盛り上げてしまったのだ……。



 そんな学者の説を、ディキシスは聞いた事があった。

 その証拠だと言うように、世界中の地下には、鉱石木に占拠された大昔の遺跡が埋もれ、凶暴なキメラや蟲が暗い空間をうろつく、死の地下窟となっている。
 人々が踏みしめている大地は、朽ちた鉱石木が積み重なったもので、無数の種がそこに含まれている。
 だからこそ、新たな鉱石木となるツル草が、どこにでも無限に伸びてくるのだと……。


 振動は絶え間なく続き、揺れる地面の中から太い鉱石木が次々と引きずり出されては、ラクシュを中心に、全員を囲い込んでいく。
 薄茶色の粉塵で視界が覆われ、辺りがよく見えない。

 複数の悲鳴があちこちから響く中、ディキシスの足元の地面が、唐突に砕けた。
 ラクシュはツル草を操り続けた末に、地下の遺跡を支える鉱石木までも、無理やり引き出して、周囲の地面を破壊してしまったのだろう。

 ディキシスは、とっさに剣を片手だけで持ち、もう片手で手近な鉱石木を掴んで身体を支える。
 足元では、地獄のような暗い奈落がポッカリと口を開けていた。

「きゃああああ!!!」

 しかし、粉塵の中から次に聞えたのは、まぎれも無いレムナの悲鳴だった。
 ディキシスは、とっさに下の暗闇へと視界をこらす。粉塵の舞い散る中に、鮮やかな黄緑の翼が見えた。

 彼は迷わず鉱石木から手を離し、鉱石木と遺跡が絡み合う地下へと落ちていった。




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