投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい
【ファンタジー 官能小説】

キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたいの最初へ キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい 74 キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい 76 キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたいの最後へ

地獄へ道連れ 1-1


 野原の中央は、ひどい有様になっていた。
 広範囲の地面が崩れ落ち、底知れぬ暗く巨大な穴が口を開けている。ときに、地底で遺跡が自然に大きく崩れた結果、こういう現象が起こることがあった。
 大騒ぎにはなるが、幸いにも地底の奥底に住む生物は地上を嫌うらしく、穴から這い上がってくるのは極少数だ。

 しかし、今夜のこれは、自然現象などではなかった。
 地底から隆起した数十本もの鉱石木が、極太のねじれた身体を絡み合わせ、巨大な鳥籠のように穴へ覆いかぶさっている。

「うおっ、マジですかー」

 ドミニク・ローアンは十騎の部下とともに、慎重に馬を歩かせて、鳥籠めいた鉱石木の要塞へと近づいた。
 はるか西の国で、暗殺者として生まれ育った彼は、今では組織内でもかなりの地位を得て、自由きままに仕事をこなしながら、世界を旅することもできるようになっていた。
 吸血鬼と手を組んだのも、キルラクルシュというものに、興味を引かれたからだ。
 もし吸血鬼たちが彼女を手に入れた後、再びどこかの国を支配しようと、ドミニクの知るところではない。
 報酬はきちんともらった。あとは伝説の女吸血鬼をこの目で見て、好奇心を満足させてくれればいい。

「……ありゃま」

 ドミニクがふと頭上を見上げて眼を凝らすと、曲がりくねった鉱石木の高い部分へ、見覚えのある姿が引っかかっていた。
 カンテラをかざせば、やはりクロッカスだ。だらりと下がった九尾は、全てが真っ白くなっていた。

「……せっかく、一つは残しといたんですがねー」

 どうやら吸血鬼たちが、クロッカスを人質にする計画は、失敗したようだ。
 まぁ、こんな予感はしていた。あの男が人質に甘んじるわけがない。

 ―― 俺に殺られるなんて、兄さんはマジで、腑抜けちまったんですねー。

 兄といっても、魔物のクロッカスと人間のドミニクに、本当の血縁などない。いわゆる絆でつながった義兄弟というやつだ。
 裏切ったり裏切られたりは日常茶飯事の、過酷な暗殺集団の中で、唯一の信頼関係である。
 しかし、それだって絶対ではない。
 弟分が兄貴分を殺す下克上だって、たまには起こるし、その逆もまたしかりだ。ようは、本当に信じられるものなど、何もない。

 特に、暗殺組織から強引に抜けたクロッカスを、旧知のよしみで呼び出し、騙しうちにしたところで、なんの罪悪感も抱かなかった。
 むしろ、苛立ちさえ覚えたほどだ。

 昔、俺の憧れたアンタはどこに行っちまった? 
 クソつまんねぇ街の店主で満足してる、アンタの抜け殻なんざ、見たくねーんですよ。 


 そんならいっそ、マジで死んじまえ。


「ぐっ!?」

 一瞬、鋭い夜風が吹き抜けたと思うと、ドミニクの背後でくぐもった悲鳴があがった。
 ドミニクがとっさに腰の剣を抜いて振り返ると、すでに部下たち全員の喉が切り裂かれ、血の噴水をあげて、馬から転落していくところだった。

「ったく。お前だから信用したんだが、あそこに居続ける時点で腐ってると気づくべきだった。高い勉強代だ。大事な命を|三回《・・・》も消費しちまったぜ」

 ドミニクの耳元で、低い中年男の声が囁く。いつの間にか、馬の後ろ側に飛び乗っていた男の声は、もうこの世で聞くはずのないものだった。
 ドミニクのうなじに、ブスリと鋭い爪が刺さった。
 刺されているのに、不思議なことに痛みはまるで感じない。だが、身体中が強張り、指一本動けなかった。動かせば死ぬのを知っていた。
 この光景を、幼いころから何百回も見てきたのだから。

「ハ……兄さん、九尾は真っ白のはずじゃ?」

 全身に冷や汗を流しながら、ドミニクは引きつった笑みを浮かべた。
 背後でクロッカスが喉を鳴らして笑う。獲物にトドメを刺す寸前の、残酷な猫の笑いだ。

「奥の手はいつでも隠しもっておけと、一番に教えただろう? 人間のお前は、一回こっきりなんだから、命は大事にしろってな」

 ツプリと、爪がわずかに深く押し込まれた。

「……それを俺に消させやがって。バカが」

 目視できないほどの速さで、九尾ネコのもう片手がドミニクを抱え込むように、前面へと回される。
 鋭く伸びた爪に喉笛を切り裂かれる瞬間、ようやく激痛が走った。
 ドミニクは後ろ向きに落馬しながら、冷ややかな眼をした青紫の九尾ネコを見上げる。
 激レアな雄ネコの魔物。
 あの腐りきった場所で、ドミニクに生きるため術を教えてくれた兄貴分。
 誰にでも人当たりよく、誰よりも冷酷だった、『笑顔で挨拶しながら、相手の喉を切り裂ける男』。
 憧れていた。いなくなったのが耐えられなくて、それなら自分がなろうと思ったほど。

 ―― なぁんだ。兄さん。アンタ、ぬけがらじゃなくて、まだ、ちゃーんと、いきてたじゃないですか。



 ああ、よかった……。




 切り裂かれた器官から、ゴポリと空気の抜ける音がする。
 声が出ないのが残念だった。


 ―― さきに、じごくで、まってます……アンタなら、ぜったい、きてくれるでしょ……。




キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたいの最初へ キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい 74 キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい 76 キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたいの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前