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キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい
【ファンタジー 官能小説】

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血のように紅く 闇のように黒く 雪のように白い-2


 クロッカスが死に、ラクシュが気を削がれた瞬間を狙い、すかさず飛び立ったレムナが吸血鬼の一人を始末した。
 ディキシスも全力で駆け寄り、ラクシュの背後を取る。
 夜露に濡れる草花に囲まれて、茫然と座り込んでいるラクシュは、あの夜に見たキルラクルシュよりも、さらに小さく頼りなく見えた。
 そこらの娘と変わらぬ服を着込み、オリーブ色の古びた革靴を履いた彼女は、白く短い髪を夜風に揺らし、こちらに背を向けて、途方にくれたように座り込んでいる。

 それでも、ディキシスは気配を完全に消していたはずなのに、彼女は振り向きもせずにディキシスを察知し、自らキルラクルシュである証を口にした。

「私、きみを……思い出した。十二年前……生きてたんだね……」

 ボソリと、小声で呟かれたセリフに、ディキシスは内心で驚いた。
 彼女にとって自分は所詮、数え切れないほど殺した人間の一部に過ぎず、人間が蟻の顔を判別などしないように、覚えているはずもないと思っていたから。

「……そうだ。お前に殺されかけて、泉に飛び込んだガキだ。まさか、覚えているとは思わなかった」

 十二年前。
 吸血鬼たちから逃げ惑うディキシスを、彼女は執拗に追いかけてきた。
 点在する泉の合間を駆け、ふと振り向くと、闇のように黒い髪をなびかせたキルラクルシュが、すぐそこまで迫っていた。
 一欠けらの感情も浮かべていない彼女は、雪のように白い手を伸ばし、ディキシスを捕らえようとする。

 ―― お前に捕まるくらいなら……。

 魔物の泉は人の身体を焼き溶かしてしまうと、街の老人から聞いたことがあった。
 それでも、どうせ死ぬなら、全ての元凶であるキルラクルシュの手にだけは、かかりたくなかった。

 足を踏み外したのか、それとも自分の意志で飛び込んだのか、今でもよく解らない。
 最も憎い吸血鬼の手に掴まれる寸前、ディキシスは彼女を生み出した、血のように紅い泉に落ちていった。

 ―― あの時、お前が俺を捕まえていたら、吸血鬼どもの未来も、違っていたのにな!

 ディキシスは腰の剣を抜き放った。夜よりも黒い禍々しい漆黒の刀身が姿を現す。

「俺が泉の底から戻ったのは、姉さんの仇を……お前を殺すためだ! キルラクルシュ!!」

 渾身を込めて振り下ろした漆黒の剣は、鈍い音をたてて地面に突き刺さった。
 滑るように刃を避けたラクシュは、ディキシスから少し離れた場所で静かに立っていた。

「キルラクルシュ!! そいつを、殺せ!!」

 吸血鬼たちが一斉に叫んだ。
 レムナとアーウェンは、吸血鬼たちへ視線を向けながらも、互いを一番に警戒しあい、緊張をみなぎらせて身構えている。
 さっきまであんなに晴れ渡っていた夜空へは、急に暗雲がたちこめはじめていた。
 輝く星河も月も、黒い雲に覆いかくされ、夜の野原はさらに暗くなっていく。

「みんな………………」

 ラクシュが俯いて、ポツリと呟く。彼女は両手を大きく広げると、勢いよく顔をあげた。
 雪白の前髪が跳ね上がり、漆黒の闇夜の中に、虚ろに澱んでいた血色の両眼が、燃え盛る石炭よりも輝いている。
 硬く引き結ばれた唇が、少しだけ開いた。


「……めっ」


 たった一音だけが、発された。
 同時にディキシスの全身へ、ぞわりと悪寒が走る。

「レムナ! 逃げろ!!」

 とっさに叫んだ時には遅かった。
 野原全体からざわめくような音がし、無数に地面を這っていたツル草が、ラクシュ以外の全員を捕らえる。

「きゃあ!?」

 飛び立ちかけていたレムナは、足首をツル草に掴まれて地面に引き倒された。手甲の刃で切っても、野原一面に生えているツル草は、すぐに新しいものが絡みつく。

「ラクシュさん!?」

 ツル草を掴んでブチブチと引きちぎるアーウェンも、すでに半身を絡み取られていた。



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