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ありがちな二人の、ありがちな日々
【女性向け 官能小説】

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鼓動-1


お互いを大切に求めあう気持ち。
それを言葉にするとしたら、どんな語彙を用いるのだろう。

二人で横になるソファーの居心地の良い窮屈さと、新太の胸の中の温かさに身を委ねて湊はそんな事を考えた。

こうして身を寄せあい、ゆっくりと時間をかけて互いを知る言葉を交わしあい、素肌をも重ねているのに、二人の間には「好き」や「愛してる」等の明確な言葉が交わされていない事に気付き、湊は新太の胸の中で小さく苦笑いをした。
そんな湊の微かな揺れに気付いて、

「…湊サン…、また苦笑いした」

そう呟いて、新太も小さく苦笑いをした。

「…ねぇ、新太…」

「ん?」

湊は、今の二人の関係に正誤を問おう言葉を探して少々考え黙した。しかし、

「…ううん。なんでもない」

うまく伝えられる言葉が見つからず、胸の中でやんわりと首を左右にふった。

「湊サンは、よく言葉を撰ぶ。やっぱり物書きなんだなぁって僕はそう思うよ」

「物書きだなんて呼べるほど大層なものじゃないわよ…」

何を目指そう目標もない、単なる趣味。しかも趣味にも拘わらずに書けない有り様。

そう言って笑う湊に、

「…湊サンが書いた話、読んでみたいなぁ…」

新太はポツリと呟いた。

「…キミが、なにか描いて、私に見せてくれたらね」

きっと意地悪を言っている。そんな事を言われたら絶対に返答に困るだろう。そう思うと、再度苦笑いが浮かんだ。けれど、

「いいよ…。でも、スケッチブックがない。鉛筆も」

「えっ?」

その口からは、自分が思ってもみなかった言葉が発せられて、湊は思わず驚いた顔を新太に向けた。

「…湊サンになら、描いて見せてもいいよ」

そう言って、ふうわりと笑んだ新太を見て、熱くなる胸や速まる鼓動で頬に熱を感じた。

「明日、絶対に買ってくるわ! スケッチブックと鉛筆ね?」

「うん…」

ソファーから起き上がり、まるで神に祈りや感謝を捧げるかのように組み合わせた両手を胸に充てて湊は小花のような笑みを咲かせた。
普段あまり見られない浮き立つ表情や声色に触れて、新太は少々照れ臭そうに小さく笑みながら、

「だから、湊サンも…書いてね?」

「…うん。わかった…」

創り人同士の心を見せ合おう、小さくも大きな約束をひとつ交わした。

「ねぇ…新太…」

「ん?」

湊は、先刻止めた言葉を伝えようと新太を見つめた。

「私達…の関係って…なんて呼ぶのかな…?」

どんな言葉が返ってくるか、とても不安で怖い。
だけど知りたい。
新太にどう思われているのか…。

新太が湊によく言う『大切な人』という言葉の心意が明確に知りたい。

衣食住に加え、性欲まで含め自分の生活に困る事がない居場所をくれる。だから大切な人?
体よく利用できるから大切な人?

嫌な事を考えたらきりがない…。

だけど、三十六という自分の歳を感じると、十も歳の若い新太が、ずっと一緒にいてくれる事に対しての理由を考えたら、どうしてもネガティブになってしまう。

そう思いながら新太を見つめると、

「…今の僕の状態を考えたら、胸を張って湊サンの恋人だなんて言えないよね…。端から見たら僕は湊サンのヒモだって思われても仕方ない…」

小さく寂しい笑みを浮かべた後に、

「だけど、僕は湊サンが大事だ。こんな情けない僕だけど、身も心も預け合いたいと思えるのは、湊サンだけ。他の誰をも考えられない」

「新太…」

「…ずっとおこがましいと思ってた。こんな僕なんかが湊サンに恋をするなんて…。だからどうしても口に出来ない言葉があった」

新太はソファーから起き上がり、湊をしっかりと見つめて、

「湊サンが大切。好きですって思い以上の気持ち…。湊サンなら、その気持ちにどんな言葉を撰ぶ?」

小さく笑んでそう尋ねた。

「…ズルいなぁ。そんな事尋ねるなんて」

そう言いつつも湊は嬉しそうに顔を綻ばせ、

「…だけど、そんなキミがとても愛しい」

ずっと言えなかった言葉を新太に放った。

「…僕だって、貴女がとてもとても愛しい…。てか、なんだろ。こんな事誰かに言ったの初めてだから、凄く照れ臭いや」

新太は少し俯いて、ははっと笑って、照れ臭さをまぎらわした。

「嬉しいよ。ありがとう、新太」

湊は新太の髪を撫でて、満足気に笑んだ。

「あーっ! なんかこっ恥ずかしい!」

新太は湊に身を委ねるようにソファーにそっと押し倒して、

「でも、僕もやっぱり嬉しい」

「…ぁ…ん…」

ふうわりと笑んで、湊に唇を重ねた。


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