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雨が雪に変わる夜に
【女性向け 官能小説】

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初仕事-1

 すずかけ町のあるここK市は、県内でも比較的大きな都市で活気に溢れていた。駅近くの中央区は高層ビルや役所、税務署、警察署などの機関や新聞社、有名デパートなどが軒を連ねる大都会。一方そこから東に3`ほど離れた大きな一級河川を渡った先に位置する東区すずかけ町は、いわゆるベッドタウンと商業地区の中心で、大型ショッピングセンターやスイミングスクール、映画館などの娯楽施設も多い賑やかな町だった。

 すずかけ町には有名な『Simpson's Chocolate House』があった。創業23年のこのスイーツ店は、カントリー風の温かで明るい木造の店舗と、プラタナスが立ち並ぶ駐車場を兼ねた前庭が特徴で、腕の良いメインシェフ、ケネス・シンプソンの作り出す魅力溢れるチョコレート製品の数々が数多くのリピーターを抱える人気店だった。広い店内の一角には喫茶コーナーもあり、手抜きを嫌う完璧主義者のケネスの手によるホットチョコレートやカカオ風味のコーヒーも絶品だった。人びとはこの店を『シンチョコ』と呼んで愛していた。

 週明けの5日月曜日。遼はいつものように夜の8時に合わせて『シンチョコ』を訪ねた。
「遼君。いつもご苦労なこっちゃな」
 ケネス(40)が出迎えた。
「ケニーさん、正月早々ずいぶん繁盛してますね」遼が店内を見回しながら言った。「さすがシンチョコ」

 閉店時刻で、少し慌てながら商品を選んでいる初老の婦人と、喫茶コーナーから立ち上がった子ども連れの家族、それに数人の女子高生らしい女の子、レジに立った若い主婦が店内に残っていた。
 レジに立ち、勘定を済ませた客に丁寧に頭を下げた、ケネスの娘でペットショップに勤めている真雪が、遼に気づいて声を掛けた。「秋月さん」
「やあ、真雪ちゃん。店の手伝い?」
「はい。ペットショップは明日からなんです」
「偉いね、ここ、手伝ってるんだね」
「パパは人使いが荒くて」真雪は悪戯っぽくウィンクをした。
「あほ。娘やったら当然や」ケネスが言った。

「はい、秋月さん、コーヒーどうぞ」
 ケネスの妻マユミが遼を喫茶コーナーのテーブルに案内し、座らせた。
「あ、すみません、マユミさん」遼は帽子を脱いで椅子に腰を下ろした。
「パトロール、お疲れ様」
「いつもいつもごちそうしてもらっちゃって……」遼は申し訳なさそうに頭を掻いた。

 最後の初老の婦人が店を出るのを見送った真雪が、テーブルに近づいてきた。
「秋月さんって、夏輝の実習指導員だったんでしょう?」
 遼は意表を突かれたように顔を上げた。
「え? あ、ああ。そうだよ」
「夏輝がお世話になっちゃって」真雪はにこにこ笑いながら二つのチョコレートが載った小皿をテーブルに載せた。
「僕はほとんど何の指導もしてないよ。彼女は優秀だったから、僕はとっても楽だった」

 真雪と夏輝は中学時代からの親友同士だった。

「夏輝、言ってました。すっごく紳士的で、相手のことを思いやる巡査長だ、って」
「そ、そう?」また遼は頭を掻いた。
「いろいろと相談にも乗ってもらったりして、『当たり』の指導教官だった、って言ってました」
「何やの、『当たり』って。失礼な言い方やな、ナッキーのやつ」
「いえ、ありがたいことですよ、ケニーさん」遼ははにかんだように微笑むと、コーヒーのカップを口に運んだ。

 遼は夏輝の実習指導員の役目を終え、昨年末からこの地区のパトロール担当になっていた。そして必ず閉店時刻の夜8時に合わせてこの『シンチョコ』に立ち寄るのが日課になっていた。


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