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雨が雪に変わる夜に
【女性向け 官能小説】

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過去-2

 遼と薄野亜紀(すすきのあき)は同じ高校の出身だった。高校に在学している時からつき合っていたが、三年前に何となく気まずくなって別れた。

 二十一歳の時、亜紀は電車内で痴漢に遭い、一緒にいた遼はそれに気づかなかった。電車を降りてからずっとうつむき、涙ぐんでいた亜紀に遼は優しく声を掛けたが、亜紀はなかなか口を開こうとしなかった。
 その日の夕方、レストランでの食事の前、その店の前の通りで、亜紀は遼を睨み付けながら言った。
「どうして気づいてくれないの?」
「え? な、何のことだよ」
「あたし、触られたんだよ」
「触られた?」
「電車で、息の臭いオヤジに」
「そ、それって、ち、痴漢?」
「そうよ。なんで気づかないの?」
 亜紀はまた遼を睨んだ。目には涙が浮かんでいる。

「そ、そんなこと言われても……」
「彼氏だったら解ってくれるって思ってた」
 遼はムッとしたように言った。
「気づかれないように触ってくるのが痴漢なんじゃないのか?」
「最低! あたしの気持ちなんか解ってくれないのね」
「解るよ。解るさ。君がすぐに言ってくれれば止めることも慰めることもできた」
「……気づいてよ」
「そんなことをするためだけに、僕は君とつき合ってるわけじゃない」
「そんなこと? そんなことって何? あたしにとっては重大事件よ」


 遼は思った。あの出来事が二人の間に小さな溝を作ったのかも知れない。

 その頃、お互いが隣にいてあたりまえの感覚になっていた二人は、遼が大学を出て警察官になってからもつき合いを続けた。二人の地元は、隣県の小さな町だったが、遼がすずかけ町の警察署に勤務することが決まってから、亜紀もこの町の小規模アパレル会社に就職し、アパートを借りて一人で暮らしていた。

 就職後、職場のことでお互い忙しくなり、遼が大学を出る時に交わした一緒に住もうという約束も自然消滅していた。いつでも電話すれば会うことができる安心感が、二人を実際に会う時間を減らし続けた。同じ町に住んでいるのに、一カ月に二度程しか会えなくなっていた。

 遼は亜紀に会えば抱きたい衝動に駆られたが、セックスのためだけに会っていると思われたくなくて、次第に亜紀を抱く回数も減っていった。亜紀自身は、遼に抱かれることで二人が繋がっているということを確かめたかったが、それもままならない状態だった。

 別れは遼が切り出した。
「僕よりもっと君の気持ちを大切にしてくれる人がいるはずだ」

「そうだね……」
 亜紀はその時、うつむいたままそう呟いたのだった。


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