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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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懐疑-6

「地球に優しいエコロジーを主題にしたプロジェクトにおいて、重要な廃棄施設やその他の生産設備の方向性について考えたいと思っている。是非とも君の力を拝借したい」
 共同で作業しやすく、カムフラージュとしては最適な業務であった。石橋の業務経歴を調べたところ、やや荷が重いかなと思っていたので、初日は勉強を兼ねてさわりだけの打ち合わせを行うつもりだったが、完全に認識不足であった。
 バイオプラント、バイオテクノロジー、有機性廃水処理や分解処理、環境計量分析、通水データに関すること、また、ISOに関しても驚くほど精通している。佐伯が褒めていただけのことはある。打ち合わせをしながら石橋の豊富な知識に舌を巻いた。
「佐伯君が君は勉強家だと言っていたよ。今日、それがよく分かった。君を選んだわたしの目に狂いはなかったようだ」
 石橋に敬意を表した。
「直接携わっていなくても業務全般に関係する知識は、会社の一員として頭に入れておくことは必要なことですから。とは言っても僕の知識は広く浅くといった程度ですので、そう褒められることではありませんけど」
 石橋はすました顔でコーヒーを啜った。
「ほう……」
 嫌味に聞こえないのがこの男の不思議なところである。心からそう思っているからだ。田倉は感動した。
 勉強する時間を入れてレクチャーは数日はかかるだろうと思っていたが、短時間で終わった。逆に石橋に質問することすらあった。
 実際に行う仕事はプロジェクトの重要な業務の一部とはいえ、石橋に手伝わせるのは忸怩たる思いはある。しかし起用したのはまさに棚ぼただった。うち合わせをしながら、だんだん打ち解けてきた。
 田倉は探りを入れてみる。
「そういえば、君は佐伯君と同期だったね」
「えっ」と数秒絶句して「佐伯君ですか? ああ、そうですね、そういえばそうです、はい」と答えた。狼狽する石橋の反応を見て疑惑は深まった。
「大学も一緒だそうだね」
「そうです、そうです、はい、いっしょでした」
「あそこはなかなか優秀な大学だね」
 テーブルの上で手を組んで正面から石橋を見据える。
「そんな、大したことは、ないです、はい」
 石橋は忙しなく資料をめくりながら、ちらちらと田倉を見て、ヘヘッと笑った。褒められて悪い気はしないのだろう。わかりやすい男だ。
「会社は君を過小評価しているかも知れない。君の豊かな才能をもっと有効に活用すべきだと思っている」
「いやぁ、それほどでも」
「とにかくわたしは君にはもっとクオリティの高い仕事に携わって欲しいと考え始めている。現在の仕事の質がどうのということではありませんよ」
 照れまくる石橋に田倉は続けた。
「話は変わるが、わたしは佐伯君のご家族と会ったことがあってね」
 息を呑む音がかすかに聞こえた。
「うん、佐伯君の奥さんがね、最近君に会ったようなことを、聞いたものだから」
 思い切って核心を口にした。石橋は能面のような顔をしていた。時々こんな表情をする。佐伯が一度だけ酒を飲みに行ったと言っていたが、石橋は酔いつぶれてしまい、全く会話がかみ合わなかったと苦笑していた。会社では一匹狼の石橋にこのことを話しても佐伯には伝わらないだろう。
「君と面識があるんだってね。佐伯君の奥さん」
「え……あ……はいはい、そう言えば会いました、会いました。久しぶりだったもので、当方も分からなくて、でも、確かに会いました。面識もありました、はい」
 やはり会ったのは目の前の石橋だった。
「昔から知っているの?」
「しん……佐伯の、佐伯君の、奥さんですか?」
「そう」
「ええ、まあ、そんな感じですね。あ、そんな変なあれじゃないですよ。ほら、えー……学生の頃ちょっと知っていた程度ですから。会社に入って佐伯君と結婚していると聞いて、そりゃびっくりしましたけど。そんな変なあれじゃないですけど」
 石橋が『進藤』と言いよどんだのは分かった。奈津子の旧姓は本人から聞いていた。平静を装ってはいるが、内心穏やかではない。苦いものが込み上げた。
「部長はどうして、し……奥さんのことを?」
 今度は石橋が質問する番だった。
「奥さんというより、ご家族のことをたまたま知っているからね。佐伯君が直属の部下ということもあるし。さて、あしたからの外回りに備えて準備をしようか」
 有無をも言わせず切り上げた。
 愛する女を失いたくないため、地位を利用し老獪に立ち回る自分がつくづく嫌になる。このようにして、会社の上層部に自分のような人間がはびこり、正義や道義、そして公正さが失われゆくのだろう。自分の不利益になることであれば人を陥れても回避するようになる。心の中で舌を出して石橋に接する自分を嫌悪した。
 もっと聞きたいことがあったが、これ以上話すと墓穴を掘ることになる。石橋は奈津子と田倉のことを知っていて、すでに墓穴に足を突っ込んでいる可能性もある。早急に対策を講じる必要がある。といってもこればかりは何も浮かばない。
 自制ができなかったこともあるが、危険を承知で部下の妻を寝取ったのだ。


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