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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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懐疑-4

「環境処理プラントについて、石橋君に少々手伝って欲しいことがあるのですが」
 田倉は沼田にそう切り出した。
「緑地保全地区はどうなんです? 全然進んでいないようですなぁ」
 田倉の申し出には答えず、いつものように眠そうな表情で切り返す。田倉は上司だが、年下で後輩ということもあり態度は横柄だ。
「おっしゃるとおり進んでいません。しかし前にも申し上げましたが、これについてはわたしは強引ではなかったかと思っています。始めからあの地区は避けて考えるべきだったのです」
「最初からやる気がないと?」
 沼田は薄い眉を片方上げる。もちろん座ったままだ。
「いや、そうは申しておりません」
「では、もう岩井代議士のところへは?」
「再度連絡をとってもなしのつぶてですし、出向いても結果は見えています。上には考え直してもらうよう進言しているところです」
「ふーん、力不足といったところかねぇ」
「否めませんが」
「上が人選を間違えたわけですな」
「力不足は感じています。もはや過去のことを振り返っていても仕方がありません。前進あるのみです。沼田さんにもお知恵をお力を拝したい、そう思っています。我々でこの大プロジェクトを成功させましょう」
 皮肉たっぷりの沼田であるが、とりあえず持ち上げておく。
「しかしせっかく代議士さんと面識を持ったのですから、このままうっちゃるのは勿体ないですなぁ」
 後頭部を撫でる沼田の表情から満更ではなさそうだ。これからもずっと組まなければならない沼田とぎくしゃくしては弊害ばかりでなんら利はない。
「そう言われれば、まあ確かに」
 田倉は苦笑した。
「石橋君に関しては煮るなり焼くなりしてもらって結構ですが、プロジェクトの詳細は極秘ですけどねぇ」
「むろんです。ただわたしには情報を開示する社員を人選する権限があります。しかし今のところ石橋君には詳細は伝えるつもりはありません」
 権限を持ち出したので、沼田はつまらなそうにそっぽを向いてから「それはそうと、あの岩井さんの手をご覧になったかな?」と言った。
「は? 手、ですか」
「うん、グローブみたいなバカでかい手ですよ。指も恐ろしくぶっとい」
 そう言って沼田は太くて短い手のひらを開いて見せた。
「あなたも大きいですが、比ではない」
「はあ……」
「岩井さんのぎらぎらした顔見たかな? あのバカでかい顔の艶のいいこと」
「まあ、確かに」
「よく見るとなかなかハンサムだったしな。若い頃はさぞ美男子だったことでしょう。いやいや田倉さんにはかないませんが」
「そんなことはありません」
「謙遜しなくとも結構。わたしと違って女子社員にはおモテになる。羨ましい限りで」
 岩井に会う道中もそうだったが、こんな話ばかりである。相づちを打つ以外ない。
「鼻の大きさも尋常ではないし。いや驚きましたよあのでかさには。わたしが出会った人間の中ではトップクラスです。しかしまあ、形はいい。ククク……」
「……」
「伝家の宝刀を振り回し、昔はさぞかし女を泣かせたのでしょうな。いやいや今も現役の可能性は大ですぞ」
「はあ……」
「田倉さんの鼻もなかなかでかいですな。いろんな女を泣かせているのでしょうな」
 にやりと笑う沼田にぎくりとした。前日、伝家の宝刀で奈津子を泣かせたばかりだ。
「あの代議士、我々が帰ったあと、絶対にあの女将と……」
「では、石橋君の件、よろしくお願いします」
 閉口した田倉は話を切り上げた。これ以上つまらない話に付き合うつもりはない。少々鼻白んで言ったにも関わらず、沼田は続ける。
「あの鼻ですからそれはバカでかいのでしょうな、股間のブツ。クフフ、そんでもってあの大きな手で女将の柔肌を鷲づかみにして、これでもかと……」
 くるりと振り向いてその場をあとにする田倉に向かってまだ何か話していた。沼田が連発した「バカでかい」という言葉が妙に耳朶に残った。つながったとき「大きいッ」と言ってしがみついてくる奈津子を思い、胸が苦しくなった。


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