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疼くの……
【熟女/人妻 官能小説】

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湯の香仄か-2

 出張続きで疲れ気味の夫。セックスはするけれど、ここのところちょっと勢いが衰えてきている。
 気分を変えて旅行でもしたら元気になるかもしれない。
思い立ったらすぐにでも行きたくなった。思えば二年前にスキー旅行に行って以来である。
(ほとんど行ってないじゃん……)
これで子供が出来たりしたら当分旅行なんて無理だ。いまのうちに行かなくちゃ。
 絶対行く。二人で何もかも忘れて楽しむんだ。いくら仕事だって家族があってのことだ。いままで有給だって取ったことはない。
 いましがたアクメを迎えて弛緩した割れ目がふたたび熱を帯びてきた。


 五百円玉貯金が十万円を超えていた。
(これ、使おう)
予算は何とでもなったけど、私が貯めたお金で夫に決断させる。


 決意、なんて意気込む必要はなかった。夫もやっぱり疲れてたみたい。話をもちかけるとすぐに乗ってきた。ずしりと重い貯金箱を見せて、
「一年がかりで貯めたのよ。十万円」
「へえ、けっこう貯まるもんだな」
「たのしもうよ。ね?」
「いいね、たまには」
「でしょう?有給取れる?」
「取れないことないけど、土日でいいんじゃない?」
(ん、もう……)
二泊くらいしたいじゃない。
 でもその気になってくれただけでもいい。
「明日ネットで探してみるから来週仕事入れないでよ」
「来週か……」
「だめよ。決めたわよ」
「わかったよ。何とかする」
「燃えちゃうんだから……」
「俺も燃えるよ」
「寝かさないから」
その夜は惹きつけ合うように合体した。


 私の体には頻繁に『疼き』が起こる。夫とは関係のない相手、ふと湧き上がってくる妄想に悶々としてしまう。疼きが私を引っ張って、後押しして、突き飛ばしてくる。感情に流されて健吾くんとは、セックスしちゃった。でも夫への気持ちは変わらない。愛はずっと夫に注がれている。これはほんと。女って、スウイーツは別腹なの。無理があるかしら。……


「電車で行こうよ」
運よく箱根の老舗ホテルを予約できた時から、私の頭には二日間の甘い物語が作られ始めていた。
 ふだんはどこへ行くにも車を使う。自由はきくけれど、お酒は飲めないし、神経も疲れる。
「たまにはいいな。のんびりするか」
夫もその気になって私の期待は夏雲みたいに大きく拡がった。
ところがこの『のんびり』が裏目に出た。


 東京駅で新幹線に乗る前に夫はすでにカンビールを空けていた。
「のんびり旅行だよ」
「そうよ」
座席に並んで座って私も一本付き合った。時々手を握ったりして。……
 小田原まで一時間もかからないのに車内で三本。登山鉄道で二本。強羅の売店でまたビールを買った。
「ちょっと、飲み過ぎよ」
「のんびりだもん、いいじゃないか」
「のんびりって、夜のことも忘れないでよ」
「もちろんだよ。寝かさないよ」
笑いが酔っていた。ロープウエイに乗った時は臭くて困った。
 結局足元があやしくなってきたので遊覧船は諦めてホテルに向かった。もともと観光はメインではないのでそれはいいのだけれど……。

 夫も仕事のストレスが溜まっていたのだと思う。
「食事の時までビールはなしよ」
お風呂に行く時に言っておいたのに、戻ってくるとまた飲んでいた。まったく呆れる。
(しょうがないか……)
夜、思いきり抱き合って、乱れて、あとは寝るだけだから。
(少し酔ったほうがいやらしいことができるかも……)
 その淫靡な時間がすぐそこまで迫ってきていた。

 レストランで豪華なコース料理をいただき、夫は陽気だった。やっぱりワインは付き物だから二人でグラスを合わせ、私はときおり脚をよじるほど秘部の疼きを感じていた。
 夫に内緒で貸し切り風呂を予約していたのである。
(九時から一時間、素っ裸で火をつけ合って、それから……)
その昂奮が間近になって、つい気を許したのかもしれない。
「ボトルで頼もうよ」
「いいわよ」
二人で微笑み合い、私はウインクしてみせた。
 このワインがいけなかった。部屋に戻った時、夫は倒れ込むようにベッドに仰向けになった。
「ああ、いい気持ちだ……」
「大丈夫?」
「うん……」
九時まであと少し。
「あのね、これから二人でいいことしましょう」
返事がないので振り返ると、
(まさか……)
夫の鼾に茫然とした。
「ちょっと、起きて」
揺り起こしてもわけのわからないことを言うばかり。

(これはだめだ……)
無理に起こしてもどうしようもない。事態がわかっていながら私は気が抜けたみたいに夫の寝姿を眺めていた。
(どうするの?……)
こんなのいやだ。思ったら浴衣に着替えてふらふらと部屋を出ていた。

 

 
 


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