再会-2
「ここで誰かと会うのかな? 本当に仕事かもしれないな」
石橋はいったん車を停車させ、しばらくしてからおもむろにスロープを下っていった。ゆっくりと車を走らせ、仄暗い駐車場内を見渡した。
「駐車場といえば、田倉と進藤さんのあれだな」
バックミラーに映る悲しげな自分の顔を確認して、前方に視線を戻すと沼田の後ろ姿が見えた。車を停車位置に入れたときにタイヤがキキッと音を立てた。一瞬こちらを振り向いたので冷や汗をかいたが、沼田はすぐに鉄の扉を開けて中に入った。
車を降りると石橋は走った。その扉をそっと開けるが誰もいない。沼田が乗ったと思われるエレベーターは三階で止まった。石橋は階段を駆け上がり、息を切らせ三階の扉を開くと喧騒あふれるロビーに出た。急勾配の坂の途中にホテルを建てたため三階がロビーになっている。
華やかなさんざめきと人の多さに驚いた。そのほとんどが中年の女性だった。昼食のバイキング目当ての主婦たちだ。
横に目を移すと多くのスーツ姿の男たちがたむろしていた。中にはビジネススーツをぴっちりと身を包むプロポーションのよい美女も混ざっている。それぞれ手帳やノートパソコンを開き、ロビーにずらりと並べてあるぴかぴかに磨かれたテーブルの前に座り、もしくは立ったまま相手と打ち合わせをしたりメモを取ったりキーを叩いていた。
沼田を探しながらも当然のごとく、その美女たちをしっかりと目の端で捕らえ、チェック機能満載の脳細胞にインプットしていく。
「ああ、いい女ばっかり。うちの会社にもいるけど、気が強くて強くて。とにかく仕事がメチャクチャできるし。わたしにはどうすることもできません。逆立ちしても無理です、はい。でも下村さんはピカイチだよな。下村さんはグッドだな、何もかも。いい女だし優しいし。進藤さんの次くらいに位置するだろう。ん? まさか田倉がモノに……いやいやそれはありえない。普通の人間だったら進藤さんを差し置いてそんな気になるはずがない。なぜなら進藤さんにかなう女性はこの世に存在しないのだから。でも田倉は普通じゃないんだ!」
普通ではない己を棚に上げ口の中でモゴモゴとつぶやきながら、ふとロビーの奥に目を向けるとスイカのようなでか頭を発見した。沼田はいすとテーブルの間を縫って歩いていき、一番奥までたどり着くと立ち止まった。石橋は女性群に紛れ込みながら前進した。
「あんた、横入りはだめでしょう。ちゃんと並んでくださいな」
恰幅のよい女性が口をへの字にして立ちはだかる。近くにいる同年配の女性たちも「そうよ、そうよ」と口をそろえる。
「違いますんで、通るだけですから。すみません、すみません」
石橋はぺこぺこと頭を下げた。
「あら、そうだったの」
赤い口紅のついた前歯を見せてけらけら笑いながら石橋の背中をぱんぱん叩いた。頭を掻きながらバイキングのメニューをちらっと見た。
(げっ三千円! 主婦ってこんなにいいもん食ってるのか!)
恰幅のいい中年女性の腹を見た。
(あんたらのご亭主はいったいいくらの昼飯食ってると思ってるんだ。独身の俺でさえワンコインだぞ)
憤慨しながら軍団の間を進む。沼田が座っているテーブルの前に人がいるようだが、柱が邪魔で見えない。沼田と対面する相手が見えるまで進んだ石橋は、その人物を確認して凍りついた。