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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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再会-1

 ここ数日、石橋はしょげかえっていた。
(どうして断らなかったのだろう。なぜ沼田に逆らえなかったのだろう。何となく隙を突かれたんだな、可哀想に俺)
 あの日、ちょっとだけ酔って不覚にも寝てしまったが、沼田にダビングしてやったことは記憶にあった。
(沼田は進藤さんの名前を知っていた。しかもなくしたと思っていた写真まで持っていた。なぜだ?)
 いくら考えても石橋には分からなかった。
(酒の席では常にしゃきっとしていることを心がけているので、不用意な発言などするはずもないし。もしかしたら他の誰かが俺と同じように進藤さんを尾行して)などと考えるが、不安な気持ちを払拭することができない。胸の辺りにかすかな痛みを覚えるのはなぜ?
 パソコンの画面を見つめ首を振り、唇をぷるぷる鳴らしていると沼田と視線が合った。とたんに沼田は慌てた様子で机の上の物を探すふりをする。石橋は姿勢を正し、キーボードをぱこぱこと叩き始めた。
 昼食後、沼田は「ちょっと○○産業さんと打ち合わせに行ってくるから、今日は直帰します」と、近くにいた女子社員に言付けして出て行った。あの日以来、うす気味悪い猫撫で声で話しかけられることはなくなったが、今度は全くと言ってよいほど口をきかなくなった。目すら合わせない。無視していると言ってもよい。まあ石橋にとってたいした問題ではないが、ダビングのことだけは気がかりであった。通常であれば直属の部下である石橋にひとこと声をかけるのだが、そうしなかった。妙にそわそわした感じで出ていった沼田の後ろ姿をじっと見つめた。
(なんか変だな)
 二日前、沼田が休憩室の前の太い柱の影でケータイを手で覆うようにしてひそひそと話しているのを目撃した。終わって戻ってきたときに、やけに幸福そうな顔をしていた。石橋と目が合うと慌てて表情を引き締めたのだ。頭の中にに赤信号が点滅した。それいらい注意深く沼田を観察するようになったのである。
(監視しなくちゃいけないヤツばかりで困ったもんだ)――ため息をつきながら立ち上がると外出の支度を始めた。隣の社員に「では行ってきます」と言って声をかけた。その社員は「はいはい」と生返事を返した。
 デスクワーク中の佐伯義雄と目があった。下あごを突き出し首をちょこっと動かして黙礼すると、破顔した佐伯は「行ってらっしゃい」と声をかけた。前方に田倉の姿が見えたので緊張した。ぺこっと頭を下げると、「よお、お疲れさん」と言って片手をあげて通り過ぎた。石橋は歩きながらエクソシストのように首だけをぐるりと回して田倉を追った。真剣な顔でデスクに伏せって仕事している佐伯に田倉がチラッと視線を送ったのを見て、再びエクソシストのようにゆっくりと首を戻す。
「くわばら、くわばら」
 首をすくめ、呪文のように唱えたのであった。
 沼田が乗ったエレベータの階数を見上げた。石橋は脱兎のごとく階段を駆け下り、地下駐車場へ向かった。社名の入っていない車に乗り込んだ沼田を確認して、息を切らした石橋も別の車にすべり込んだ。沼田の車はビル街を抜け、繁華街を抜け幹線道路に入った。そのまま走っていくとより大きなビル群がある。石橋の車はつかず離れず沼田の後を追った。運転しながら鼻歌が出るくらい追跡は手慣れたものであった。やがて沼田の車は巨大ホテルの駐車場のスロープを下っていった。


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