加藤綾美の価値-10
そして静香はもう1人の容疑者を取調している部屋に入る。静香は容疑者の顔を見る。
「…」
静香は眉を顰めながらじっと見る。容疑者はその視線から顔を背けた。
(この男…)
見覚えがある顔だった。見覚えと言うよりは面影だ。その男がもう少し若い時に見た記憶があった。
「あなた…」
30歳後半ほどに見える男はビクッとする。そして静香の記憶と面影が繋がった。
「若菜…、若菜は被害者の高校生のケアをしてもらえるかな?ショックだったと思うからちゃんとケアしてあげてくれる?」
「はい!」
若菜は取調室を出て行った。静香はここに若菜をいさせたくなかった。ただ出て行けと言ってもまたひねくれて面倒臭い事になりそうなので仕事を与えて取調室から出させたのだ。若菜が出て行ったのを確認してから静香は容疑者を見つめ、そして言った。
「徳山…大二郎ね…?」
バレたかという表情を浮かべてゆっくりと静香の方を見た。
「はい…。」
伏し目がちに答える容疑者。そう、R4コーポレーションに関わっていた。高田が亡くなった時に麻薬取締法違反で逮捕。当時大学生でもあり麻薬に関して大した役割を担っていなかった為に3年の実刑を言い渡されたのであった。
「出て来てたんだ…。」
「はい…。」
特に絡むこともなく素直な印象だった。
「で、すぐに犯罪?あの覆面集団に入ったって訳だ。」
「ち、違います!俺は今世間を騒がせているあの集団には入ってないし接触もしてません!」
慌てて否定する。
「R4コーポレーションとは、もともと覆面を被って不特定に女性をレイプしていたR4というグループが元になって出来た会社。R4はその昔、やはり世間を騒がせた神と呼ばれる男のあとを継ぐようにして出来たレイプ集団。そのメンバーにあなたはいた。」
もはや観念したかのように肩を落とす徳山。
「神とは誰?突然姿を消した神とは一体誰なの?」
「し、知らないんだ!本当ですよ!」
「嘘つきなさい!!」
「本当ですよ!俺みたいな下っ端には素性は教えて貰えなかったんですよ!R4で知ってたのは高田さんだけでしたから!喜多さんも中西も知らなかったはずです!」
「嘘でしょ!?」
「本当です!高田さんだって神のあとを継げるほど神とは親密じゃなかった。でも神がもう消えると言い出した時に名乗り出たからこそ素性を明かされた訳だし、神は未だに謎だらけなんです!」
「…」
嘘は言っているようには思えなかった。しかし静香にとってはこの上ない重要参考人だ。捜査の前進が期待できた。