赤木智紀-6
しばらく考えて有ることに気づいた。あの時、なっちゃんとぶつかった時に、オレは手に持っていたスマホを落としていた。なっちゃんも手下げの中身をぶちまけていた。その時に入れ換わったんじゃ…。
じゃあ、これはなっちゃんのスマホ。そう言えばオレと同じタイプを使っていたことを、密かに嬉しく思っていたんだった。
なっちゃんのプライバシーがここにある。オレはスマホを見つめてドキドキした。
が、当然ながらモラルとして、これは絶対に中を見てはダメだ。
でも、さっきの『いやああああ』の状態のままでは、お互い気まずい高校生活を送ることになる。どちらにしても電話をしなければいけない。スマホが入れ換わっていることが判明したので尚更それを伝えないとダメだ。
オレは電話を掛けるだけだからと自分に言い聞かせて、なっちゃんのスマホを使うことにした。
でも、ロックを解除しないと電話は掛けれない。どうしようかと考えていたオレの脳裏にふと有ることを思いついた。そして思ったとおりに、なっちゃんのイニシャルの『N』の字を画面になぞった。
画面が変わった。予想していたこととは言え、あっさりロックが解除されたことで、オレの動悸がさらに激しくなった。
震える指先で自分の電話番号を入力した。しばらく躊躇していたが、またもや「よしっ!」と気合を入れて通話ボタンを押した。
「えっ!」
画面に浮き出た文字に驚いて、素早く通話を切った。
【智くん♪】
なっちゃんのスマホに、オレの番号が登録されている。それも誰も呼ぶことの無い愛称でだ。友人たちからは『智紀』か『とも』なので、この呼ばれ方はこちょばくて嫌だ。
しかし、これがなっちゃんから呼ばれたとしたらどうか?不思議なことに全然嫌じゃない。それどころか凄く嬉しい。
オレは香織が言ったことについては半信半疑だったが、ようやく信じることができた。
若しかしたら好意を持たれてるかも。
こうなったら、自分の方から告白すべきだ。しかし、今日のことでイマイチ自信喪失しているオレはもっと確証が欲しかった。
オレの心の中の悪魔が囁いた。『もっとオレに好意を示す何かが無いかを探せ』と。
オレは心の中の天使を端っこに追いやり、スマホを操作した。一番目立つ場所に画像アプリがあったので、それに恐る恐るタッチした。アプリを開き、一番上の小さい画像が目に入ったので、それをタッチして拡大した。
画質の悪い見慣れた顔が浮かんだ。
オレは手で拳を握り「よしっ!」と喜びを現した。そしてスマホを通話の操作に戻して、さっき掛けた【智くん♪】にリダイヤルした。
コールが数回鳴った。電話のコールにこんなにドキドキしたことは今まで無かった。
電話がつながった…
直ぐに声が出なかったけど、思い切って絞りだした。
「ほ、本多?オ、オレ、赤木だけど…」
けど、相手は何も答えなかった。オレは電話を切りたくなったがもう一度声を出した。
「本多、聞こえる?」
返事が無い。オレはスマホに祈るような気持ちで言った。
「本多、聞こえてるなら返事して」
『は、はいっ!』
驚いたようななっちゃんの声が聞こえた。
「良かった。本多だよね」
オレはホッとした。
『ど、どうして赤木くんが…』
なっちゃんの緊張した声が途中で途切れた。無理もない。多分オレもそうなるだろう。