神とモンスター-6
その夜、麻耶は自宅マンションで誰かを待っていた。胸に苦しさを感じるのは静香と若菜を始めとした、悪を懸命に捜査する警察官から感じる正義だ。麻耶に正義がない訳ではない。しかし自分が警察を騙しているようで胸が苦しかった。
やがて携帯が鳴り応対する麻耶。ドアを開けて迎え入れたのはかつて神と呼ばれた男、湯島武史だった。もはやその面影はない。穏やかで紳士的な風貌をした家族を愛する理想の夫と言った感じだ。
「何かあった…?」
麻耶はただ大切な話があるとしか言っていない。しかし麻耶が何を話したいのか予想はついていた。ソファーに対面して座る。
「たけちゃん…、このまま黙っているべきなのかな…?それともこの事件を止めるべきなのかな…?」
憔悴しきった表情で呟くように言った。
「徹にこういう道を進ませてしまったのは俺の責任だ。麻耶は何も悪くない。」
「私だってたけちゃんに徹君をしっかり見ていてくれって頼まれたのにこんな事になっちゃって…。責任あるよ。面倒を見切れなかった…。私からどんどん離れて行っちゃった…。」
今にも泣きそうな麻耶。そんな麻耶の肩に手を置く。
「麻耶だって俺が巻き込んでしまったんだ。俺が責任を取ればいい事だよ。犯罪者は罪を償うべきなんだよ。あの時は探しても探しても俺を逮捕出来ない警察が面白くて仕方なかった。見つからない自信しかなかった。でもこの歳になってようやく分かって来た。俺に暴行されて苦しんでいた女性達の顔が頭に浮かんで苦しくなる事が多くなった。あの頃みんなから快楽を与えて貰った分、彼女達の未だに抱えている苦しみを少しは解放してやらなきゃならないと思っていた所なんだ。俺、自主するよ…。徹の事も全て話す。」
「で、でも残された絵里さんと愛海ちゃんが…」
「自主する前に離婚するよ。絵里には俺がしてきた事を全て話してある。それを知った上で愛海を産んだんだ。でもレイプ犯の夫を持つ女にはしたくない。パパがレイプ犯だと真実をつきつけられたら愛海が可哀想だ。俺には離婚する事でしか家族を守れない。情けないけど、ね。」
すでに覚悟は決めていたようだ。昨日今日で出した結論とは思えないような言葉の重さを感じた。
「私も逃げない。けじめをつける。」
「麻耶…」
見つめ合う2人。その瞬間、とんでもない事が起きた。