佐藤家の過去-3
どうやら誰かに電話を掛ける様で、誰に掛けるのかも知らず今は口を閉じるしゅう
「・・・・あっ、もしもし・・はいっ!加藤ですー、今お時間少々宜しいでしょうか?」
「ちょっと、スミマセンがパートナーを代えて頂けませんでしょうか?」
「!!」
先輩の言葉にパッと目が見開かれ
「はい・・はいっ、何か体調が優れないって言う物で・・」
何か言いたげに先輩を見つめる
「はい、はいっそうですか!スミマセンお忙しいのに・・はい、失礼いたしまーす!」
ピッ
無言でケータイを閉じ、そのまま何事も無かったかのようにポケットにしまい
「先輩っ!俺、やれますってばぁっ!」
必死に訴えるしゅう・・しかし
「るっせーなぁ!オメーの何処がやれるって言うんだよ!えぇ?」
「・・それは、ゴホッゴホッウーゴホォッ!」
口では嘘をついても身体は嘘をつけず、必死に咳を堪えようにもそれも出来ず
苦やしみ・・
「そんなんじゃ仕事になんねーからぁ、俺の足を引っ張るだけでパートナーの俺が
怒られるんだからようっ!」
「でもぉっ!」
今だ、食い下がらない後輩に苛々が増し・・、そんな中一台の車がやって来て
「お待たせいたしましたぁーっ!」
しゅうの代わり先輩のパートナーとなる配達員姿の男性がが先輩の元に駆け寄って来て
待ってました、とでも言わんばかりに止まった時計が再び動き出したかのように
その人と一緒にトラックに乗り出し
「先輩っ!」
「帰れっ!この役立たずがぁっ!!」
しゅうが本来乗って次の配達先へ向かう筈のトラックに別の人が乗り二人共
しゅうに振り向く事なく、次の配達先へとトラックを走らし
トラックの後を無駄に追っかけるしゅうにマアフラから黒い煙が容赦なく彼の顔にかかり
そして、ただたださっきまで乗り降りしていた小さくなってゆくトラックを見つめ・・
彼は先輩の足を引っ張り、仕事途中で追い出され大事な工賃にひびが割れ
「・・これが、小学生の頃の・・しゅう」
幸子に言われしゅうの家へ入る樹里奈
「うーんと、麦茶でいい?」
つい最近実家に戻った幸子はやや不器用に冷蔵庫を探り、樹里奈も軽くそれで構わない
と返事をしつつ、幸子が出してくれたしゅうの家族アルバムを物思いに見つめ
「可愛いでしょ?やっぱ若いっていいねっ!」
「えぇ、何だかとても元気な顔・・してる」
あらっ弟の方?・・とズルッと体を傾け
「へぇー、アイツのガールフレンドかぁー・・生意気にこんな可愛いくてしかも賢そうな
子を・・」
「!わっ、私は別に・・そんなんじゃ・・」
軽いノリで幸子なりに緊張を解そうとし、声を掛けつつ麦茶を置く
「・・そうですか、これは4年前の」
樹里奈が、先ほどから無意識のうちに肌に放さず持っている写真
ソコには30代後半の何処かしゅうに似た男性とそして活き活きと尚且つ優しそうな顔を
した女性に、高校生の頃だと話してきた4年前の幸子とそして無邪気にあどけない顔で
満足そうにサッカーボールを持つ少年が映っていた・・
「・・皆、幸せそうな顔・・してますね」
しみじみとその手に持つ写真を見つめる樹里奈
そう語る樹里奈を見つめ、少し間を置きそしてゆっくりと語る
「幸せ・・かぁ、確かに私達一家は何処の家庭と何の代わり無い普通の家庭よ
あの日までは・・」
ハッと顔を上げ、何があったのかを訪ねる・・
「・・はぁ」
重い足取りで自宅へ向かうしゅう
彼は仕事から解放されてホッとする事無く、生活費を稼げなかった・・と言う思いで
一杯一杯でひたすら暗い地面ばかりを見つめ
時より通り過ぎる家族連れを見つめ暗い表情を浮かべる
彼の頭の中では今後生活費をどうするかで悩んでいた、杞憂ではあるがもし仕事をクビに
でもなったら母を助けれない・・と
ポツポツポツ・・ザァーーーー
落ち込む彼に追い討ちを掛けるかの様に雨が降り出す
・・が、彼にはさす傘は無く走って帰る事無くただただ無抵抗に容赦なく降り続ける
雨に打たれ・・
「おいっ・・」
後ろから聞こえる敵意の感じる男の声
振り向くとソコに見慣れた顔があった
「・・君は」
それはかつてしゅう達サッカーチームを馬鹿にしたライバルチーム達だった・・
「・・・・そんな・・事が・・」
しゅうの姉、幸子から衝撃の事実を知った
どうしてまだほんの中学一年生のまだあどけない彼が、家の事そして母の事を常に
考え、背負い込まなければならなかったのか・・
4年前
地元の出版社に勤める父、龍馬・・ごく普通の専業主婦でママさんバレー部所属の母
響子・・高校三年生で将来看護士を目指し勉強中の姉、幸子
そして小学3年生で地元サッカー少年団に所属しているしゅう
「えぇ?出版社を辞めて新しく出版社を立ちあげる?」
父の突然の提案に目を丸くする母
「あぁ、前から自分の会社を立ち上げるのが俺の夢だったからな・・」
「・・大丈夫なの?また一からやり直すのって大変なんじゃ」
「心配すんなっ!お前たちには一切迷惑は掛けない、それに上手くいったら今より
もっと収入が入るかもしれないっ!」
父は一度言い出したら聞かない人だ・・、母も昔からそんな彼の性分を理解していて
だからこそ・・
「はいはいっ、分かりました・・じゃーしっかりねっ!幸子としゅうの為にも
期待・・してますからねっ!」
母は軽い溜息混じりで笑みを浮かべそんな父の提案を許した・・
それから半年後
父の立ち上げた出版社は何とか上手く行き、部下を持ち彼の理想は見事叶えられたのだ
「父さんっ!すごーいっ!自分の会社を立ち上げる何て、それじゃー今は社長なの?
良かったね夢が叶ってさぁ」
父の成功を素直に喜ぶしゅう、彼はこの頃からも変わらず優しく