彼の笑顔-2
しゅうを国立競技場へ連れて行く計画に困惑する樹里奈と春華
「・・彼の為に・・彼を、しゅうをラクにしてあげたい・・その為にここ最近色々と
ガンバってるんだからサ」
「・・それは、だって!」
図星ダガ何処か動揺し机に視線を落とし、どうしようか悩んでいたその時
「どうしたの!佐藤君?傷だらけじゃない!」
女子生徒の声の挙げられた方を振り向くとソコに顔が傷だらけのしゅうが居て
案の定樹里奈は彼を心配するクラスメート達の中の輪に潜り混み
「大した事無いよ、ちょっと野良犬に噛み付かれたダケだからサ」
何時に無く無邪気な笑顔で心配する皆を宥め・・
「ホントに大丈夫?」
「犬に噛まれてそんな風になるのか?」
それでも尚心配するクラスメート
「ホントに大丈夫だって、ゴメンね・・心配掛けて」
無邪気な笑顔の彼をじっと見つめる樹里奈・・
「いててっ!」
保健室にて怪我した頬にガーゼが張られ案の定痛がるしゅう
「はいっおしまいっ犬に噛まれたんだが何だが知らないケド、ちゃんと絆創膏くらい
張らないと悪化しちゃうわよ」
傷薬等を元の在る場所に戻し軽く忠告をする先生
「でも、そんな時間」
「はいはい分かったから、先生の言う通りだよ、そのままだと傷口が広がるかも知れない
からさっ」
彼の何時に無い控えめな口を遮り先生の言葉を後押しする樹里奈
「・・御免」
バツ悪そうに目線を床に置くしゅう
「・・一体どうしたの?その傷」
保健室を後にし朝の質問をもう一度問うと
「いやっ、だからこれはそのっ」
「・・私にも打ち明けてくれないの?」
目を細め、首を軽く傾げ彼に何処か力強く問う
「・・蓮見・・サン」
この時、頭の中で色々と戸惑っている・・樹里奈は彼のそんな心情を見逃さずにいた・・
「はぁ・・」
1月・・雪が容赦なく降り注ぐ中、軽い溜息カラ白い吐息が姿を現す
手提げ袋片手にコンビニを後にする樹里奈
「やっぱ無理よ、親から金を貸せ・・何て」
独り言を呟き、先ほど家に帰った時、母に言い出せなかった自分を思い返し
眉に力が入らず、暗く視線を地面に固まった雪に下ろし、とぼとぼとその頼りない
足取りで家に直行しようとすると
「おぉー、大丈夫ですか?」
ガソリンスタンドを横切る際、ふと耳に入った何気無い台詞・・
樹里奈は何気無く振り向くとソコに
「しゅう?・・」
ソコにしゅうが居た、見るからに重たい灯油を両手に握り
身体を不安定に、何時灯油を下敷きに転んでもおかしくないくらいに・・
「親の手伝いですか?偉いですね・・でも、もうじき灯油を車で運ぶ為迎えに来るんでしょう?だったらそんな運ぼうとしないで待ってれば良いじゃないですか?」
知らないとは言え、無神経に聞こえるさっきから彼を心配する
ガソリンスタンドの店員の言葉
「いや、大丈夫です!・・このまま家に持ち帰りますので」
「いやいや、何言ってるんですか!こんな重たいもの」
「・・うっ、ホント大丈夫ですから・・家もこっからかなり近いので・・」
嘘付け!こっからだと歩いて1時間はくだらないだろう
彼らのやり取りを遠くから険しい表情で見つめ・・
そしてしゅうは店員の制止も聞かず重たい灯油を手に、そのぎこちない足取りで
ガソリンスタンドを後にしようとすると
「うわっ!」
案の定転んだ、と言うよりも地面に張った氷によって
「!」
彼の危機に咄嗟に彼の元へ駆け寄り・・
「大丈夫・・ですかぁ?無茶ですって幾ら近いにせよ、こんな雪が降ってて氷が
張っている様なトコに・・」
痛さで反論する気にならず、重い腰を挙げようとしたその時
「は、蓮見サン?」
ようやく気づいたかっ・・とでも言わんばかりにパッと目を見開き彼を見つめ
その腕を引き上げる
「とにかく、親が来るのを待ちましょう、ハッキリ言って無謀だと思うので」
「いや、ですから俺はっ」
見るに見かねた樹里奈は咄嗟に・・
「そうだよ、そうしょうよっ!お兄ちゃん」
「?!」
彼女の言葉に『えっ』とでも言わんばかりにドヤ顔をし
そんな彼に構わず更に続ける樹里奈
「もぅー、お兄ちゃんってば幾ら此間お父さんと喧嘩したからって何も見栄張んなくたっていいじゃないの!」
「・・いや、俺は君の・・いたたたぁっ?!」
彼が余計な事を言い出しそうだったので足を踏み咄嗟に口を塞ぎ
「あー、妹サン?あーそっかそっかそういう事何だ、なんだじゃー向こうで・・」
そう言われ待合室へ向かう羽目に
「・・何であんな事、言ったのさ・・」
始終八苦不満気な彼、バツ悪そうに彼女に問いかけるも
「ちょっと聞いてぇ」
「黙ってっ、今会話中・・」
彼の不満を他所にケータイで誰かと通話する樹里奈
「あー、うん・・うん、御免・・有難う助かる」
ピッ
通話を終え一呼吸し席にゆっくり着くと
「あの・・もしもーし蓮見サン?」
「一体何を考えているのよっ!?寒ーーいっ冬に・・視界は悪い足元も滑りやすい中 1時間も掛けて自宅に重い灯油を運ぶ・・何て・・」
「・・だって車運転出来るハズもないし、運んでくれる人なんて・・居ないから」
「なら自宅まで運んでもらうよう店に頼めば良いだけじゃないの・・」
「いや、それじゃーお金・・掛かるし、それなら俺が運んで行けば済む話しだし」
「しゅう・・」
それから後付で小さく溜息を付き
「大丈夫だよ、ちゃんと運んでいってあげるから」
「運ぶって・・君が?無茶だよそんな」
「馬鹿ね、灯油って言うのは車で運ぶ物よ、常識ジャン」
陽気にウィンクをし、彼に言い聞かせる
「でも、車で運ぶったって一体誰が」
「そりゃーー、あっ来た来た」
「へっ?」