蜜月1-2
「でも、イベントのときなんか、必ず手料理を持ってきてくれるの。それがとっても美味しくて。それに、若い人がいやがる仕事を全部引き受けてくれるから、尊敬はしているわ」
「ほう、若い人ね」
「いじわるね」
頬をふくらませると、夫は頭をかいた。
そう、彼はいじわるなところがある。煌々とした明かりの中、全裸にした奈津子を立たせ、体に触れながら隅々を確認していく。そうして「綺麗だ」「瑞々しい」「若々しい」などと褒め称える。見えないところは無理矢理広げて。
「あ、そうそう、田倉部長だけど、ほら、ずいぶん前にスーパーで君も会った僕の上司、覚えているかい。珍しく今日、早く帰っちゃったんだ。いつもは夜遅くまでいるのにさ」
「……ええ、もちろん覚えているわ。そうなの」
いきなり田倉の名が出たので気が動転した。
「何だか慌てて早く帰ったんだ」
うれしくもあり、恐ろしくもある。動揺を悟られないよう平静を装う。
「あんまり急いでいたんで、心配になっちゃってね。部長に電話をかけてみたんだ」
いたずらっぽい目をする夫から視線を外した。心臓が早鐘のように鼓動する。無意識のうちに胸を押さえていた。
「そうしたらね……」――と、夫は笑う。「ああ、もちろん心配することではなかったんだけど……」と、含み笑いをしながら話を続けた。「実家でいらなくなった電気製品をね、ご母堂さまがご贔屓の電気屋さんに取りにきてもらうよう頼んだらしいんだ、その時間に。部長は『家から運び出すのも、電気屋さんにお願いすればいい』と言ったらしいけど、ご母堂さまは『そんな失礼なことできない』と言って呼びつけたんだ。家にはご母堂さましかいなくてね」
牛乳パックを持とうとしたとき、危うく落としそうになった。
「おっとっと」
「あ、ごめんなさい」
両手でキャッチした夫は、笑いながら自分でコップに注いでごくりと飲んだ。
「それで田倉部長、慌てて帰ったってわけ。電気製品を運んでいたようで、息切らしてたっけ。実家は結構広いみたいだよ。電話してかえって邪魔しちゃったかな」
洗おうと空のコップを持って立ち上がったとき、腰が砕けるようにがくんと落ち、足がもつれてよろけた。
「おいおい、大丈夫かい?」
「ちょっと足腰にきているかも」
冗談を言ってみたが顔がこわばっているのが分る。よろけたのは足が竦んだせいである。腰が怠いのは事実だが……。
彼が恐いくらい高ぶったのは――そう、電話があった時からだ。体の中に入ってきた彼の分身は驚くほど硬く熱かった。力尽くで動きを封じ恥ずかしい格好にして、あんな所もいじわるく……。さらに精液の量の多さにも驚いた。ホテルを出てから夜の公園に誘われ、また彼は求めてきた。――そういうことだったのだ。
「やっぱり疲れているんだ。もう寝た方がいい」
首を振る姿を見て夫は言ったのだ。素直に従った。
その夜、夫が寝室に入ってくると奈津子の方から求めた。疲れた様子の奈津子を心配していたが、ペニスを頬張ると興奮してきたらしい。彼のと違って口の中に全部すっぽり入る。
「フェラチオが上手になった」――と彼が言ったのを思い出した。
口の中でぴくぴくする夫のペニスがいとおしかった。鼻の奥がつんとした。夫のほっそりした太ももに涙が滴った。泣き顔を見られたくないので顔を伏せた。
彼の精液は何度も飲み干しているが、夫のはない。大罪が帳消しになるはずもないが、愛を込めておこなった。やがて口の中で跳ねた。ほとんどにおいのない夫の精液を口に含み、彼にするときと同じように嚥下した。彼が異様な興奮を見せた理由が理解できる自分が怖かった。