その存在に祝福を-8
――エメリナはなぜか盛大なふくれっ面をしていたが、マルセラの普段好む服装などを聞き、猫耳つきの赤いジャケットに白いブラウス、レースたっぷりの黒いスカートと、一式を選んでくれた。
癪に障るが、助かったと礼を言うと、失礼なハーフエルフは驚いた顔をしていた。
それから選んだのはジークということにしておけと言い、着たら写メを送ってくれとか言っていた。
ダチでもないのに図々しいと思うが、マルセラは何を着ても可愛いと、自慢してやるのは悪くない。
そして陽はとっくに沈み、都会の明るい夜空に、冬の星座が薄っすらと瞬いている。
綺麗にラッピングされた包みを抱えたジークは、隣室のドアベルを前に、十五分も前から同じ姿勢で硬直していた。
これを渡して、マルセラに本当の誕生日を聞く。……最終試練だ。
(って……どんな顔して渡せばいいんだよ!)
ギリギリ歯を喰いしばり、冷や汗を流して悩んでいると、不意に傍らの窓が開いた。
「あれ? ジークお兄ちゃん、どうしたの?」
窓から顔を覗かせたマルセラに、包みを急いで押しつけた。
「受け取れ! 誕生日プレゼントだ!」
「え? 今日はジークお兄ちゃんの誕生日じゃ……」
ポカンとした顔で包みを両手で抱えたマルセラが、首をかしげる。
「あ……あの、な……誕生日なんか、大したことねぇと思ってたんだ……」
自分の声は情けないほど掠れて小さくなっていた。喉がカラカラになって、うまく言葉が出てこない。
「だから、今まで聞かないで……悪かった」
誕生日を祝う意味を教えられた今でも、自分の誕生日なんか、やっぱりたいして嬉しくない。
だけど、世界でたった一人だけ……マルセラが生まれた日なら、特別幸せな記念日だ。
全身がムズ痒くなるような気恥ずかしさを我慢し、勇気を振り絞って告げる。
「次はちゃんと祝いたいから、お前の誕生日を教えてくれよ」
マルセラが一瞬大きく目を見開き、これ以上ないほど可愛らしく笑った。
終
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《エメリナの携帯》
差出人:チェーンソー狼
件名:無題
お前のセンスが上出来なわけじゃねぇぞ、マルセラは何を着ても似合うからな!
だが、一つだけマズイ
こんな可愛いガキが歩いてたら、誘拐されるんじゃねぇか?
危なっかしいから一人で出歩くなと言っておいたがよ
*添付画像ファイル1
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《ジークの携帯》
差出人:腹黒ハーフエルフ
件名:Re:
色々つっこみたいけど、やめとく
とりあえず、新しい待ち受け写真のゲットおめでとう
(――なんでコイツ、俺が待ち受けにしたの、知ってんだよ!!??)
*前の待ち受けは、温泉旅行で雪遊びしているマルセラの写真。