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大陸各地の小さな話
【ファンタジー その他小説】

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その存在に祝福を-7

***

 なるべく人目につかないよう、ジークが休憩所で観葉植物の陰に隠れていると、薄ピンクのコートを着たエメリナが、小走りにくるのが見えた。

(……本当に来やがった)

 自分で呼び出しておいて何だが、驚いた。

「あ、本当に居た」

 観葉植物の陰から姿を現したジークに、エメリナが目を丸くする。

 ――なんだかコイツと思考回路が同じような気がして、妙に腹が立つ。

「チッ……いるに決まってんだろ。そっちこそ、一人で来るとは思わなかったぜ」

 ギルベルトの姿が見えないのに気づくと、エメリナは少し困ったように首をかしげた。

「先生はお出かけ中なの。でも、マルセラちゃん絡みだったら、大丈夫そうだから」

「……俺を知ったような言い方すんなよ」

 見透かされているのが悔しくて唸ると、やっぱり腹黒なハーフエルフはニンマリ笑った。

「万年制服の極悪退魔士で、マルセラちゃんを大好きってことくらいしか、知らないわよ」

「っ! ただの、隣りに住む、ちょっと親しいガキだ……っ! 未来の嫁じゃねぇ!!!」

「……誰もそこまで言ってないって」

 呆れた顔で言われ、顔が赤くなるのを感じる。
 ぐっと息を飲み、簡単な経緯を説明した。

「――そういうわけだ。お前、誕生日にうるせぇエルフが母親なら、プレゼントにも詳しいだろ? 三年分の誕生日プレゼントに適当な服を選んで買ってきてくれ」

 店を視線で指し、エメリナに財布を押し付けたが、ハーフエルフの女は動こうとしなかった。
 それどころか複雑そうな顔で、ジークを見上げている。

「なんだよ。誕生日をスルーしたのが悪いって文句なら、散々言われたぜ」

「そうじゃなくて、マルセラちゃんはきっと、本気でジークをお祝いしているのに、他の人に文句言われたから、適当に何かお返しを買ってやったなんて言ったら、傷つくわよ」

「っ!?」

 ギクリと硬直したジークを見て、エメリナは溜め息をついた。

「私だって社交辞令でプレゼントを渡すことも多いけど、大事な相手が生まれた記念日なら、ちゃんとお祝いしたいと思うもの」

「大事な相手が、生まれた記念日……?」

 妙に乾いた声で、鸚鵡返しに聞き返した。
 そんな風に考えたことなど、なかった。

「誕生日を祝うって、基本的にはそういうことよ。マルセラちゃんが、この世に存在して良かったと思うでしょ?」

「当たり前だろ!」

 思わず叫んだ。

「わざわざ誕生日じゃなくたって、いつだってそう思ってる!!」

 夢中で怒鳴り、周囲の注目を思い切り集めていることに、やっと気づいた。半端にとがった耳を押さえていたエメリナが、ニヤニヤしている。

「マルセラちゃんの事になると、いちいち声がでかいわよ。私のこと、言えないじゃない」

「……っ、わかったよ。いやはや、確かに大事な日だな」

 顔をしかめ、ポケットに手を突っ込んだ。クッキーに添えられていたメッセージカードが指先に触れる。
 マルセラは、ジークがこの世に生まれて存在していることを、毎年祝ってくれていたのか。

「うん、だからとびきりの誕生日プレゼントを選びに行こうよ」

 エメリナが今度は嬉しそうに笑う。そして、ひょいと首を傾け、例の子ども服店を眺めた。

「お店に入りづらいなら、一緒に行ってあげる」

「げっ! 俺も行かなきゃだめかよ!?」

「あのねぇ。プレゼントに服を選ぶって、けっこう難しいのよ? 相手の好みとかサイズとか……マルセラちゃんの身長って、このくらいだっけ?」

 そう言うと、エメリナは自分の手で胸の高さを示した。

「そうだな。それから体重は多分、お前の半分より……」

 エメリナの体重なら、部屋で担ぎ上げた時にだいたい知っているから、解りやすく答えてやったのに……。

「さ、最悪!!」

 エメリナは顔を真っ赤にして、きびすを返す。

「あ!? ちょ、おいこら、待ちやがれ!」

 逃げ去ろうとしたエメリナを捕獲し、小脇に抱えあげた。

「ん? お前、あれから少し重くなっただろ。マルセラはこの半分から、差し引き……」

「い、言わないでよ、バカぁぁーーっっ!! だいたいの体型でいいんだって!!」



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