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大陸各地の小さな話
【ファンタジー その他小説】

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その存在に祝福を 〜エメリナとギルベルトの場合-1

*「魔眼王子と飛竜の姫騎士」と「異種間交際フィロソフィア」を、先に両方お読み頂くことをお勧めします。

 ジークの買い物に付き合うという妙な事件の翌朝、エメリナはギルベルトの家まで走って出勤した。
 そして朝一番で、ギルベルトへ決意をつげる。

「――ダイエット?」

 ギルベルトが首を傾げた。
 彼は昨夜、例の不思議な店から帰った後、徹夜でずっと書き物をしていたらしい。書斎の机はノートや紙で埋まっていた。

「はい。ですから、いつも作ってもらっているお昼ご飯は、すみませんが、しばらく我慢します」

「必要ないと思うけどなぁ。無理すると、身体を壊すよ」

「うぅ……先生は私に甘すぎるんですよ! 体重計の数字が、真実を語っています!」

 涙目でエメリナは訴える。
 ジークに重くなったと言われてギクリとし、最近ご無沙汰だった体重計に乗ったところ、しっかり増えていたのだ。

「うーん……」

 納得いかないといった顔で、ギルベルトは考え込んでいたが、不意に立ち上がってエメリナを抱き締めた。

「ひゃっ!? 先生!?」

 大きな手が、さわさわと身体を撫で回していく。

「やっぱり。太ったんじゃなくて、レンジャーの仕事に同行して、筋肉がついたせいじゃないかな」

「……はい?」

「抱き心地は相変わらず良いし、もうちょっと増えても大丈夫なくらいだ」

 耳元で笑われ、顔が赤くなる。

「あ……そういえば、ジークも『太った』じゃなくて『重くなった』って……」

 思わず呟くと、ピタリと手が止まった。

「……エメリナくん? 今のは、どういう意味かな」

 にこやかな顔と声だが、琥珀色の目は欠片も笑っていない。

「っ!! あ、あ……実は、昨日……」

 ギクっと身体を震わせ、エメリナはひきつった顔で昨日の珍事件を話す。ついでに昨夜、ジークから送られてきたマルセラの写真つきメールを見せた。

「――なるほど」

 盛大なノロケ文章つきの画面を見て、ギルベルトはやっと手を離してくれた。

「はい、後で話そうと思ってたんですけど……もしかして、怒ってます?」

 心なしか、ギルベルトは少し不機嫌そうだ。ジークの呼び出しに一人で行くなんて、危ない事をしたと怒っているのかと、不安になる。
 しかしギルベルトは小さく溜め息をつき、表情を和らげた。

「いや、良い事をしたと思う」

 そして再び、抱き締められた。今度はしっかりと片手で顔を押さえられ、唇を塞がれる。

「……怒ってはいないんだけど、妬いてはいる」

 唇を離したギルベルトが、ニヤリと笑ってエメリナを抱き上げた。

「ちょ、先生!? お仕事……」

「ああ、休憩だ。それから昨日、未発見の遺跡を教えてもらったから、来月あたりに行こうかと思っている。同行するエメリナくんもこき使う事になるから、今日はその代休」

「ええええ!?」

「初めて知ったけど、俺はけっこう嫉妬深かったんだな」

 琥珀色の瞳は愛しい相手をみつめるように細められているけれど、その奥に凶暴な光が見え隠れしている。

「そういうことで、雇用主の権限により本日はお休み。それから恋人としてのお願いだ。今日はずっと俺に抱かれてください」

「あ、あの……」

 唇を指で丁寧になぞられながら、狼の視線で要求される。

「ああ、言っておくけど、今日は手加減できないから」

「――――っっ!」

 硬直したエメリナを寝室に運び、人狼の青年はやすやすと組み敷く。

「エメリナ……誕生日じゃないけど、俺も君がこの世に存在してくれたことが嬉しい」

 耳元で囁かれ、きゅうと胸が締め付けられた。首に手を回し、引き寄せる。

「わ、私も……ギルがいてくれて、嬉しい」

 唇が重なり、荒くなっていく息の合間で、ギルベルトが小さく笑った。

「次の遺跡はちょっと危険な場所だけど、君は必ず俺が守るから」

 エメリナも微笑んで頷く。

「北国最強の狼さんを、信用しています」

「光栄だな、頑張らないと」

 琥珀色の両眼が細まり、とても嬉しそうに額へ口づけを落とされる。
 それから激しい愛撫に翻弄され、疲れ果ててまどろむ間際、こんな囁き声が聞えた。

「信じられないような話だが……昨日行った場所で、神さまに会った」

「……かみさま、ですか?」

 腕の中でくたりと脱力しながら、殆ど夢うつつに突拍子もない言葉を聞き返す。

「うん。貴重な面白い昔話を、沢山聞かせてもらったよ」

 穏やかな声が心地良い。そっと髪を撫でられ、ゆるゆると眠りに落ちていく。

「この世界が異種族に溢れるようになった軌跡を教わった……」

「ぁ……せんせ……?」

 蕩けそうに眠くて、あまり理解できない。ただ、とても幸せだった。
 大好きなギルベルトの声が、意味を形つくらないまま、ゆったりと聞えた。

「世界中の存在を愛する、孤独な神さまが教えてくれた古代の遺跡へ、一緒に行こう」






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