昼の静香と夜の静香-2
２人は更衣室を出て駐車場へと向かう。
｢角田さん、いつもすみませーん！｣
帰りが遅い時はいつも俊介に家まで送ってもらう。当然静香も一緒だ。
｢気にすんなよ！静香の可愛い後輩だからな！｣
親指を立てる俊介。
｢先輩、私の事可愛いんだぁ！｣
｢ば、馬鹿じゃないの！？心配なだけよ！｣
動揺はありありだ。
｢でも心配してもらえるだけ幸せな後輩ですよ〜！ヘヘッ。｣
ニコニコしながら見つめる若菜についつい思ってしまう。
(ヤバイ…カワイイ…。)
このままあの笑顔に見つめられていたら思い切り照れてしまいそうだった静香はそそくさと助手席に乗り込む。後尾座席に若菜が乗ると車は出発する。
｢若菜には小さな兄弟いるんだよねぇ？？｣
｢あ、はい。6歳の弟と5歳の妹がいます。でも思うんですけど、って事は5年前ぐらいにお父さんとお母さん、子作りしたって事ですよねー？いつの間にって感じですよ〜。死ぬ何ヶ月か前に妹を作ったって事になりますよね？？何で今頃子供作ったのってずっと思ってました。｣
｢そう…。｣
その理由は若菜の父、正芳から聞いており知っていた静香。しかし話さずにいた。たが…。
｢でも何か最近になって思うんですよねー。ほら、刑事だからいつ死んじゃうか分からないし、もし何かで私が死んだり家を出たりしたらお母さん１人になっちゃうじゃないですか？だから私だけじゃなくて子供をもう少し作っておきたかったんじゃないかって。お母さんが孤独にならないように。｣
その言葉に驚く静香。
(驚いた…！この子、お父さんの意志を感じてたんだ！)
きっとすぐに辿り着いた結果ではないだろう。たくさんの事を考えて、そして自分の中で導き出された答えなのだろう。若菜が色んな角度から物事をとらえ、それらを真剣に考える事の出来る人間だと感じた。
｢…、って考えると、お父さんは私が警察に入ろうとしてるの知ってたんじゃないかって思うんですよね。だって私はずっとお母さんっ子だったから、その私がお母さんを１人にして家を出るはずないじゃないですか？それでもいなくなる事を想定したとしたら死ぬ…ですよね？私は病気なんてした事ないですし、病気で死ぬ事を想定するより、警察に入って危険な目に遭い命を落とす可能性の方が想定しやすいと思うんですよねー。分かんないけど。｣
(す、凄いわね…。上原さんがまさに言ってた事だわ…。)
正芳が50歳を越えて子供を立て続けに作った理由を聞いた事がある静香。まさにその言葉通りの事だった。
｢若菜ちゃん、刑事の素質あるよ！｣
俊介が言った。
｢何でですか？？｣
｢何となく。｣
そこへ不意に静香が口を挟む。
｢つーか俊介、いつの間に若菜をちゃんづけで呼ぶようになったのよ！｣
｢えっ？い、今が初めてだよてん。ほら、上原さんじゃ堅苦しいじゃん。｣
｢ふ〜ん…｣
｢べ、別に深い意味ないよ…！｣
ハンドルを握る手が落ち着かない。
｢あれ〜？先輩、もしや…嫉妬？｣
｢！？何で私があんたなんかに嫉妬すんのよ！？馬鹿じゃん！？｣
頬を膨らませ窓の外に顔を向けて黙り込んだ。若菜は静香のそういう普通の女性の姿を見せる瞬間がとても好きだったりした。