オオカミさんの ほしいもの -14
「悪ぃな。もう入れるぞ」
囁き、腰を抱える。マルセラは唇をきゅっと引き結び、小さく頷いた。『がんばる』と言ったのを思い出したのだろうか。
心臓の奥から、形容しがたい感情がこみ上げる。
ずっと前から、マルセラと一緒にいると、この名も知らぬ感情に襲われる時があった。
初めてこれを感じたのは……そうだった。
コイツが右腕を喰いちぎられた俺を見て、自分の英雄よりも俺に生きて欲しいと言ってくれた時だ。
唇を合わせながら、自身をこじ入れると、くぐもった悲鳴があがった。
「ん、んぅぅ……!!」
ひどく狭い内部で、ブツンと千切れるような感覚が伝わった。
熱く蕩けて十分に濡れているのに、痛いほど締め付けてくる。信じられないほどの快感に、目が眩んだ。
全部入れたところで耐え切れずに一度止め、マルセラの様子を伺った。白い額に汗が滴り、耳や首筋まで紅潮している。肩を大きく上下させ、荒い息を吐いていた。
「はぁっ……は……ぁっ」
腰を抱えなおし、さらに密着させると、涙をポロポロ流してシーツを握り締めた。
「……ほら、つかまれ」
両手をそっと取り、自分の背中に回させる。
「あ……」
「がんばったな。お前の中、最高にきもちいい」
額に口づけると、マルセラがふわりと微笑んだ。小さな花がほころぶような笑みに、思わず見惚れる。
抱きつく小さな身体が、すりすりと身を擦りつけた。
「ずっと一緒にいてね……」
そっと囁かれ、またじんわりと心臓から、あの感情が滲む。
「ああ。俺も……一緒にいたい」
普段なら、照れくさくてとても言えないような言葉が、するりとこぼれ落ちた。
繋がったまま抱き締めて、キスをする。
(ごめんな。お前の幸せを願ってやりたいのに……)
マルセラはジークが自分に優しくするというが、それは間違いだ。
彼女が嬉しそうだと、なんだか自分も嬉しくなるから、色々と手を貸すだけで、つまりあれは全部、自分のためだ。
あんな事件が起きず、両親が生きていた方が、きっと彼女は幸せだったろうけれど、そうしたらジークとは出会わなかった。
だから、そうであれば良かったのにと、ジークは思ってやれない。
とても可哀そうで、気の毒にと思うけれど、このがさつで凶暴な人型狼に捕われてくれたのが、嬉しくてたまらない。
――お願いだから……これから一生その笑顔を守り続けるから……最後には、俺と出会ったのも、そう悪くなかったと思ってくれ。
腕の中で、マルセラがひっきりなしに甘く鳴き続ける。
絡み付いてくる内部が気持ちよくて、緩やかな抽送が、徐々に激しくなっていく。
あまりの快感に、何も考えられなかった。
初めての相手を気遣う事も忘れ、夢中で貪った。マルセラが、うわごとのように何度もジークを呼んで、それに応えて手指を絡め、唇を重ねる。
聞えるのは言葉にならない喘ぎ声ばかりだったのに、あいしてる、と言われた気がした。
内部が大きく痙攣し、最奥まで突き入れたものが搾り取られる。
残らず注ぎこみ、くたりと脱力している世界で一番大切な相手を、壊さないようにそっと抱き締めた。