△△△△-7
夜中にふと目が覚めた。
全身汗だくで震えが止まらない。
陽向は更に毛布にくるまると、荒い息をついて必死に耐えた。
なんだ…これ…。
下で湊がもぞもぞと動き、そして、目を開けた。
目が合う。
「あれ…?起きてんの…?」
「あ…う、うん」
湊は、様子がなんだかおかしいと思い、陽向に近付いた。
「は…ぁ…さ、さぶい…」
「え?大丈夫かよ…」
陽向に体温計を渡す。
鳴るまでの間、湊の手をぎゅっと握る。
「…陽向?」
「う…」
体温計が鳴る。
湊は数字を見て驚愕した。
40.5℃。
一瞬にして恐怖に襲われる。
「病院行くぞ」
「…へ?明日…い、行くんでしょ…」
「んなこと言ってる場合じゃねー」
湊は震える陽向にパーカーとジャケットを着せ、自分もさっと着替えると、外に停めてある車まで陽向をおんぶして行った。
助手席に陽向を乗せて車を走らせる。
陽向は目を閉じて荒い息をついた。
「ひな?」
「…ぅん?」
話しかけていないと、気が気でない。
いつ話せなくなってしまうかわからないと思うと、心臓が張り裂けそうで苦しい…。
前に入院していた大学病院に着き、フラフラした陽向を支えながら夜間入り口をくぐる。
「どうしました?」
夜勤の看護師がすぐに駆けつけてくれた。
「ここ最近ずっと高熱が下がらなくて、さっき40℃まで上がってしまって…」
湊が看護師と何か話している。
ぼーっとしていると、すぐに診察室に案内された。
一通り診察を終え、CTやレントゲン、採血、尿検査を済ませて、今度は処置室に呼ばれる。
横にある椅子に腰掛けると医者がやってきた。
30代後半くらいのダンディでかっこいい先生だ。
名札の名前をチラッと見る。
仲川翔と書いてある。
「風間さん。確定診断をしたいんだけど…腰椎穿刺って知ってる?」
腰椎穿刺…髄液を取るやつだ。
そういえばこの間、脳の勉強をした時にチラッと見たな…と思うが知識に自信がないので「聞いたことはあります」と答えた。
「おそらく髄膜炎だと思う。でも、髄液を取ってみないと分からないから、なんとも言えないんだよね。…どう?腰椎穿刺出来そうかな?」
それをやったら、解熱剤以外の薬がもらえるかもしれない…と浅はかな考えが頭を過る。
「…はい、やります」
「分かりました。準備するからちょっと待っててね」
仲川はニコッと笑うと、近くにいた看護師にベッドに促すように言った。
隣の部屋の患者用のベッドに案内される。
横になっていると仲川がすぐに来て、ゴソゴソと準備を始める。
「看護学生さんだっけ?」
仲川の介助に付くと思われる看護師が陽向に優しく問う。
「はい」
「腰椎穿刺って勉強した?」
「えーと…なんとなく…」
「そーだよねー、あんまりわかんないよね。あたしも学生の頃だったら、何それー!って思っただろーなー」
看護師はあははっと笑った。
「腰に針を刺すんだけどね、最初だけちょっとチクっとするかもしれない。気分悪くなったりしたらすぐ教えてね」
「…はい」
「はーい。じゃ、左向いて…」
言われた通り、身体ごと左を向く。
後ろでゴソゴソされているのがなんだか怖い。
服をめくられ、背中に布をかけられる。
「刺すところ探すからねー。呼吸は普通にしてて大丈夫だからね」
腰の骨の辺りを仲川が何度も押し、場所が決まったのか、その辺りを消毒する。
「麻酔ちょうだい…」
緊張するが、頭が痛くてそれどころではない。
「風間さん、ちょっとチクっとするよー…」
「はい…」
次の瞬間、腰に恐ろしい痛みが走った。
思わず「ゔっ!」と声が漏れる。
痛みの中心から、ぼやぼやと感覚が無くなっていくのが分かる。
麻酔の痛さが頭痛を上回った。
「風間さん、これ、分かる?」
「…は、はい?」
「針で腰突ついてるんだけど、痛い?」
「あ、全然分からないです…」
その返答を聞き、仲川は「分かりました」と言った。
「今からもう一本針を刺します。少しだけ押されるような感じするけど、足が痺れたりしたらすぐ教えて」
「はい…」
「それじゃ、いくよ」
ぎゅっと目を瞑ると、仲川の言った通り、重苦しい鈍痛のようなものが腰部を中心に駆け巡った。
脳天までぼわんとする。
更に奥に進めたのか、圧迫感が強くなる。
例えようのない感覚だ。
深部を握られているとでも言うのだろうか。
感覚の鈍い部分をゆっくりと圧迫されているような、そんな感じ。
痛いというより、重苦しい。
酸素を求める魚みたいに、自然と呼吸が上がってしまう。
「ちゃんと取れてますからねー」
「…はい」
約5分後、針が抜かれ、刺した部分に絆創膏が貼られた。
仰向けになり1時間の安静を言い渡される。
「結果出るまで少し時間かかるから。それまでここでゆっくりしててね」
「はい。ありがとうございました…」
目を閉じてため息をつく。
なんだか疲れてしまった。