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It's
【ラブコメ 官能小説】

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△△△△-8

間も無くして湊が中に案内される。
「痛かった?大丈夫?」
看護師から話を聞いたのだろう。
湊は心配そうな顔で陽向を覗き込んだ。
「へーき…」
横にある椅子に腰掛けると、湊は大きなため息をついた。
「1時間安静だってな」
「うん」
しばらくぼーっとしていると、看護師がやってきて氷枕をくれた。
冷たくて気持ちいい。
「彼氏さん?」
「あはは…はい…」
「風間さん、1人暮らしなの?」
「はい」
「1人暮らしだと頼る人がいないから、こんなことになっちゃうと大変だよね。辛かったでしょ」
「どうしようかと思っちゃいました。本当は明日もう一回病院行こうって言ってたんですけど、こんなことになっちゃって…」
「そうだよね。実家は?ここから近いの?」
「あ…福島なんです」
看護師は驚いた顔をして陽向を見た。
「あらっ!そうなの?!一応ご両親にも連絡しておかないといけないんだけど…すぐ来れそうにないよね?」
親に連絡って…そんなにヤバいのか?と思う。
「はい…多分、明日かあさってになっちゃうと思います…」
自分から後日連絡するつもりでいた。
今すぐに言った方がいいのかな…。
困惑していると、仲川が「風間さん」と陽向の前にやってきた。
「入院しましょう」
「え」
入院?!
そんなにひどいのか?
「そりゃー驚いちゃうよね。でもね…」
仲川は先程の腰椎穿刺の結果を話し始めた。
髄液を調べたところ、普通の人の60倍以上の細胞が検出されたらしい。
「ウィルス性髄膜炎です。点滴で治療するんだけど、最低2週間は入院しないとだね」
「え…そんなにですか…」
「うーん。このまま家には帰せないね…」
「分かりました…」
「親御さんは?」
仲川がそう言うと隣にいた看護師が「実家が福島だそうで、すぐには来れないみたいなんです」と言った。
「…そっか。じゃあとりあえず明日の朝に僕から電話するから。それでも大丈夫?」
「はい…大丈夫です…」
「それじゃあ、準備するからちょっと待っててね」
看護師と仲川がいなくなる。
入院か…。
湊に目を向ける。
「ごめん…」
「なんで謝るんだよ。入院して、しっかり治してもらえよ。俺もできるだけ来るから」
そう言うと、湊は陽向の髪を撫でた。
「身体が疲れてたんだろーな。俺も気付いてやれなくてごめんな」
「湊は悪くないよ…」
「ゆっくり休んでな。…明日、荷物持ってくる」
「ありがと…」
その後は、大量の点滴を投与されながらICUに連れて行かれた。
顔なじみの看護師に遭遇する。
「どっかで聞いたことある名前だなーと思ったらー。また来ちゃったの?今度は髄膜炎で」
「あはは…すみません。またお世話になります」
「明日にはすぐに病棟に上がれるから、少しの間だけどよろしくね。何かあったらすぐ呼んでね」
「ありがとうございます」
陽向はベッドに横になり、目を閉じた。
「ひな、また明日来るからな」
「うん…」
湊の声が遠くなっていく。
どうか早く退院できますように…。

翌日には病棟に移動することができた。
朝の薬を飲んで、熱が上がらないうちに実家に電話をかけようと思い、ガラガラと点滴を引き、看護師に付き添われながら電話ボックスまで向かった。
3コール目で母の声が聞こえた。
「あ…もしもしお母さん?あたし。陽向だよ」
『陽向?!大丈夫なの?!今日お医者さんから電話があったからすごく心配で……。もー…あんたってばこの間は喘息で、今回は髄膜炎だなんて…。無理しすぎなんじゃないの?』
「ごめん…心配ばっかかけて」
『もー本当に心配で心配で…。これから国家試験もあるのに、そんなんで大丈夫なの?』
「大丈夫だよ…多分」
『多分って…。あ、そうそう。今日これからお父さんとそっちに向かうから。夕方くらいになっちゃうと思うけど…ごめんね』
「え、施設は?」
『副施設長にお願いしてきたから少しなら大丈夫。それより自分のこと心配しなさいよ』
「はい…」
また迷惑をかけてしまった。
ダメな子供だとつくづく思う。
電話を切り、はぁ…とため息をついて看護師と共に部屋に戻る。
身体がものすごく重いし、あんなに寝たはずなのにまだ眠い。
ウトウトしていると、個室のドアがガラッと開いた。
「うす」
「湊…」
荷物を持った湊が部屋の中に入ってくる。
「ありがと、荷物」
「いーえ。体調、どう?」
「熱上がったり下がったりの繰り返し。さっき薬飲んだけど、切れたらまたすぐ上がると思う」
陽向は、ははは、と弱々しく笑った。
その顔を見て湊は口をへの字に曲げ、陽向の頭を撫でた。
「ちょっと頑張りすぎた?」
「え?」
「…佐山のこととかさ。学校とかバイトもあんのにひっきりなしに連絡取って時間見つけて花井に会ったり北海道まで行ったり…。感じないストレスもあったんだろ」
「そーなのかな…」
「しばらく休みな。国試のことも大変だろーけど、今は休めって神様が言ってんだよ」
湊は「な?」と優しく微笑んだ。
「毎日は来れねーけど、出来るだけ来るから。早く元気になれよ」
具合が悪くなると、人の優しさが必要以上に身に染みる。
頑張って治療しよう、と陽向は思った。


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