冥界の遁走曲〜番外編〜-1
俺が一番欲しかったものは何だ?
生きるために必要な物だ。
食べ物、衣服、そして住処。
他は何もいらなかった。
一日一日が必死だったあの頃を俺は今日、ほんの少しだけ思い浮かべた。
番外編 「Rob or Save」
◎
空は文字通り雲一つない天気であった。
同時に太陽の光すらそこにはなかった。
機械によって作られた空だ。
そんな空の下で現在にらみ合った状態の四人がいる。
付近にはバイクが置いてあるがその数は人の数より一つ少ない。
バイクはその四人の方向をじっと見つめるように向けられていた。
「お前達」
その内の一人が口を開いた。
よく見ると隣の男とは顔が似ている。
「名前を聞こう」
聞かれた方の少年はニッと笑って、
「御剣 龍也だ」
少女の方は少し焦ったような顔をして、
「三神 楓」
持っていたトンファーを構えた。
彼女は戦闘を急いでいる。
理由は一つ、アキレスを止めることだ。
先ほど戒の方から連絡が来た。
よりにもよって龍也が地上から来た少年と絡んでいるときに、だ。
だが、話が話だったので龍也は戦闘をすぐに中止してバイクを動かしてくれた。
もし低レベルの任務なら彼は他の人に任して自分は戦闘を続行していただろう。
そんなルーズさはあるが、彼が今特攻隊長である理由は『難しい任務なら絶対やる』と言うことだ。
任務が難しい=敵が強い、というのが彼の判断基準の一つだ。
そういう任務を受け、それを達成して戻ってくるから彼は上の位へとのしあがれたのだ。
そしてその戦い方は位通り特攻だ。
作戦を考えたりといった行為は一切せずに敵に向かってまっしぐら。
それで任務達成率100%というのはある意味奇跡に等しい。
だが、それが彼の強さなのだ。
それが分かっているから楓は龍也の部下という形でサポートに回っている。
それでも実際に戦うとおそらく楓が負けるだろう。
今では、の話だが。
「お前ら、確かファングとフォートレスだったな」
名前の確認、そして、
「お前らは俺達の足止め役を任されたんだな?」
「そうだ」
青龍刀を持つファングが肯定する。
「アキレス様がご自分の任務を果たすまでお前達には先に行かせない…そう言うことだ」
「よし、分かった」
龍也は大きく頷いた。
「じゃあ…どけ」
ニヤリと笑いながら剣を振るうべく動く。
ファングもそれに対応して動いた。
そして二人の太刀が交差する。
鉄と鉄の音が弾けて甲高い音を奏でる。
そしてお互いゴリゴリと押し合う。
「ぬぅ…」
「くぅ…」
二人は唸りながら前に力を押していく。
「なかなか…やるじゃねえか…」
龍也は力を入れながら嬉しそうに笑う。
それを見てファングも笑う。