投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

栗花晩景
【その他 官能小説】

栗花晩景の最初へ 栗花晩景 117 栗花晩景 119 栗花晩景の最後へ

晩景-4

 ノックをする。間延びした声がして覗き見するようにドアが細めに開いた。私を認めるとにっこり笑った。
「ハンバーガー一個食べちゃった」
私が答えなかったのは言葉が出なかったからだ。化粧を落とした顔は別人かと思うほどあどけない。二十歳どころか、高校生か、中学生にしか見えない。

「シャワー気持ちよかった」
体の線はそれなりの成長をみせていて、今日買ったYシャツを形の良い胸の膨らみがつんと突き上げている。下半身は下着姿である。引き締まった尻がシャツの裾に見え隠れしている。伸び盛りの肢体はそれだけで眩しい。格好だけは男を誘う娼婦だ。

「ジーパンは?」
「洗っちゃった。明日までに乾くかな」
恥じらう様子もなく尻を振ってベッドに腰掛け、ポテトを食べ始めた。
「本当はいくつなの?」
「いくつって?」
「齢だよ」
「二十歳って言ったじゃない。見えない?」
「見えないな」
「よく言われるのよね。あたしベビーフェイスだから。お化粧しないと未成年に見られちゃうの」
慌てた様子を見せないのは本当に二十歳なのか、やり取りに慣れているのか判断はつかない。

 私はデスクに持ってきたビールを置いてベッドに座った。隣にはメグがいる。乳首の突き出た胸がある。約束だから触ってもいいのだ。何ともいえない居心地であった。
「先にする?ビール飲んでから?」
する、というのはセックスのことなのだろう。そのあまりの軽さに苦笑すると、メグは真顔になっておもむろにシャツを脱いだ。若い裸身が惜しげもなくさらけ出された。小ぶりの乳房がプルンと微笑んだ。
 首から上と両腕が日に焼けてシャツの形だけ肌が白い。窓からの自然光を受けて産毛が光って美しい。

 内心たじろぎながらも何も言わずに眺めているとゆっくりベッドに仰向けになった。局部を被っているブルーの下着も今日彼女が選んだものだ。贅肉のない流れるような体は光沢さえ感じる滑らかさである。
 乳房に手を触れるとメグは眠るように目を閉じた。そっと揉んで手を止めた。違和感がある。柔らかすぎる。いや、弾力の程度ではない。感触に微妙な異質性を感じた。
 桜色の小さな乳首に唇を当てた。シャンプーの香りに混じって肌の匂いが広がる。何かが違うと考えているうちに、『女』の匂いではないと気がついた。それは子供の匂いに近いものだった。小学生の頃の身体検査の光景が浮かんだ。保健室に充満した子供の肌の匂い。そう感じたのは揺らめく感情のせいだったのか、実際に彼女が幼かったのか、わからない。
 メグが尻を動かしながら下着を脱ぎ始めた。私は彼女の腕を取って抱き起こした。
「ビール飲んでからにする。ハンバーガー食べていいよ」
「うん……」

 苦いと言いながら私に合わせて缶ビールを空けた。やがてとろんと瞼が落ちてきた顔はまるで子供である。疲れもあったのか、寝るようにすすめると素直にベッドにもぐりこんだ。
「おじさん、いい人。……する時、起こしてね。遠慮なく……」
そして間もなく寝息を立て始めた。
 しばらくすると肩を揺すっても起きない。口が少し開いて前歯が覗いている。唇を重ねてみた。ポテトのにおいがした。

 部屋に戻ると乱暴に服を脱ぎ捨てて全裸になって寝ころんだ。めらめらと猛った陰茎を力をこめて握った。沸き起こる想いは満たされない欲望による苛立ちだけではない。怒りのような感情がある。自分が欲する行動と、逆に抑制する圧力が拮抗して縺れ合っていた。

 まだ五時半だ。どこかへ飲みにいこうか。起き上がって服を着ながらふと由美子の声が聞きたくなった。
(来週にでも迎えに行こうか……)
携帯を手にした時、着信音が鳴った。
(由美子……)
「義姉さん、いまかけようと思ってたんだ」
「ほんと?……これから行っていい?」
「行くって?」
「あなたのところ、真壁」
胸を衝かれた想いだった。
「いま、旅先で、群馬にいるんだ。高崎」
由美子の返事が聞き取れない。騒がしい雰囲気から屋外だと思われた。ざわめきや何かのアナウンスが聞こえる。
「義姉さん、聴こえる?どこにいるの?」
「……土浦、来ちゃった……」
「なんで……」
電話してくれればと言いかけて、無視していたことに気づいた。
「ごめんね、義姉さん」
「ううん、いいの。勝手に来たんだから」
喉の奥がつかえるような苦しさが込み上げた。
「高崎なんだ……」
「うん……」
「……由美子」
「はい……」
「こっちに来ないか?」
「いまから?」
「いや、明日でも」
「今日、行く」
「うん。新幹線ならすぐだ」
由美子が走り出したようだった。
「上りが出るから。また掛ける」
言い終わらないうちに切れた。

 窓の外は晩景が迫っている。一日が終わろうとしている景色を眺めながら、怒りがおさまって仄かに温かい心に変わっていることに気付いて息をついた。
(移りゆくものには抗いようがない……)
泡のようにそう思い、部屋の変更を頼むためにフロントのキーを押した。そして明日の宿にも連絡しなければと思った。


栗花晩景の最初へ 栗花晩景 117 栗花晩景 119 栗花晩景の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前