「罠」-3
しばらく向かいの席で見ていた達也は、弘之が徐々に夢中になって麻衣に話しかけている様子を眺めてニンマリしていた。どうやら麻衣は弘之のタイプだったようである。麻衣はまだ20歳だが、かなり美人でスタイルも良く、何より大人の扱いが上手い。やはり麻衣を連れて来て正解だったようだ。
弘之にはただの友達と紹介したが、本当のところはそうではなかった。達也が麻衣とセックスをしたのは一度きりであるが、セックスフレンドという関係でもない。
以前、執拗なストーカーにつきまとわれていた麻衣を助けてやったことがあり、それ以来、達也の頼み事は何でも聞いてくれていた。今回はこの弘之とセックスして欲しいと頼み込み、東京まで連れて来たのである。
居酒屋ではそのまま30分ほど大いに盛り上がった。弘之は麻衣にアルコールの低いカクテルなどを勧め、弘之自身も上機嫌で飲んでいる。隣同士でお酌をし合い、楽しそうである。そして8時近くになった頃、達也がおもむろに席を立った。
「俺、少し寄りたい所があるから、もう出るよ。おじさんは麻衣ともう少し飲んでたら?」
「お、おい。達也待てよ。まだもう少しいいだろ?俺と麻衣ちゃんだけじゃ、会話が困るだろ?」
「おじさんなら大丈夫だよ。俺抜きで十分すぎるぐらい話してるって。それと・・、香織さんにはこのこと言わないから安心してよ」
「ああ・・。すまん・・。気をつけて帰るんだぞ」
弘之は少し困った様子を見せたが、内心は喜んでいた。麻衣のような若く美人な女と2人で飲める機会など、もうこの先には無いと思ったからだ。
「麻衣ちゃん、悪かったね。ホントは達也と居たかったんだろ?」
達也が居なくなった後、弘之は麻衣に尋ねた。
「ううん、そんなこと全く無いです。私、同年代の人には興味無くって、おじさまみたいな年上の男性が好きなんですよ。実は今まで既婚の方とお付き合いしたこともあって、色々と分かってるつもりです・・」
麻衣は意味深にそう言いながら横に座っている弘之のほうへ寄りかかってきた。
「ま、麻衣ちゃん・・」
アルコールで酔った弘之には、麻衣の思いがけない行動にどう対処したら良いかすぐには思いつかなかった。しかし、会社からそんなに離れていない場所で、若い女性とこうして2人で飲んでいるのは明らかに危険であると感じていた。
「あの・・。もし良かったら、私が泊まっているホテルまで送ってもらえませんか?歩いてすぐそこなんですけど、私酔っているし、東京はやっぱり怖いから・・。ご迷惑だと思うんですけど、お願いします・・」
全てが魅力的な麻衣に懇願された弘之に断ることなど出来るはずもなく、弘之はすぐに勘定を済ませると、麻衣と2人でホテルへと向かって行った。