見え隠れする想いV-1
――――・・・
魔法陣へ飛び込み、光の回路を抜けると・・・
異様な空気に包まれた屋敷の前へと葵達は降り立った。
「ここが神楽さんの・・・?」
小さく頷いた神楽は葵に傷を癒されたものの、まだ痛みがあるらしく顔をしかめている。
「あとで傷を見せてください」
今まで葵が一度で完治できなかったことなどなかった。しかし、九条のもつ聖剣が与えた傷となれば・・・それなりの力が必要かもしれないことは十分承知していた。
神楽を支えながら、偽の神官たちとともに屋敷内へと足を進みいれる。まだ夜も明けていない分、辺りが暗いのはわかるが・・・それ以外にも何かがおかしい。空気が淀んでいるような・・・押し潰されそうな息苦しさに葵は首を傾げていた。
―――ギィィ・・・
重い扉が開かれると、数人の老若男女があたたかい笑顔で迎え入れてくれた。
「お帰りなさいませ神楽様!!」
どのような者が住んでいるのか葵はわずかに不安があったが、出迎えた者たちの笑顔はとても明るく・・・とても裏があるようには見えない。
ほっと肩の力を抜いた葵の元へ一人の中年の男が進み出た。
「ま、まさか貴方様は・・・」
震える声で葵の目を見つめる中年の男の顔色は良いとは言えず、体調が悪いことは葵の目にも明らかだった。
その男が大事そうに握りしめる手の中にはキラリと光る・・・神楽が話していたあの石があった。
「ローハン、お前の言っていた女神様は想像よりもずっと素敵な方だ」
神楽の声はどこまでも優しく、ローハンと呼ばれた中年の男は目に涙をためてコクコクと頷くばかりだ。
「そうですか・・・貴方が・・・」
手の中の石は傷さえついておらず、葵を象ったその優しい眼差しは・・・微笑んでいるように見えた。
握手をもとめて葵が両手を差し出すと、嬉しそうに自分の手を差し出したローハンは激しく咳き込んだ。
ローハンの手は苦しそうに宙を掴み、その場に倒れ込んでしまった。
「神楽さんと同じ症状・・・?」
眉をひそめて葵がローハンの上体を起こすと、真っ赤な血が口元を濡らしていた。
「ローハンを部屋まで運ぶのを手伝ってくれ」