前編U-19
島崎逹が、長い々一日を終えて家路に着く頃、松嶋恭一は李海環の邸宅を出て、中華街を歩いていた。
たった二日の間に飛び込んで来た二つの依頼。片や警察、もう一方は華僑の首領。
そして、その両方を断ったのに、何故か心が晴れない自分がいる。
(どうにも、呑みが足りないようだな……)
こういう場合、中途半端な酒は憂鬱さを更に増すばかりで身体に悪い。だから潰れるまで呑む事で、一時的に記憶を消してしまうのだ。
だが、それはあくまで一時的な物であり、泥酔から醒めれば、また憂鬱さが姿を顕す。こんな事に生産性など無いと解りながらも、恭一の足は自然と呑み屋へ赴いていた。
(久しぶりだが……)
恭一は、携帯電話を掛けた。呼び出し音が数回、耳許で鳴った後に相手は出た。
「どうしたんだ?……」
声の主は五島英文。かつて、恭一と幾多のアクションを共にしたパートナー。
但し、四年前のアクションを契機に、恭一が“裏の稼業”を辞めた事で、彼も行動を同じくしていた。
四年ぶりの近況を交わす事も無く、恭一は本題に入った。
「どうだ?久しぶりに、いつもの店で呑らないか」
「……そ、そうだな」
「じゃあ、待ってるからな」
必要な言葉だけを交わし、電話は切れた。余韻の中で恭一は、五島に不自然さを感じた。
(ひょっとして……)
李然り、四年と言う歳月は、人を変えてしまうのに充分な月日である事が、恭一には引っ掛かっていた。
店に着いた恭一は、ショットグラスを呷る様に呑んだ。ジャックダニエルの、琥珀の液体が喉を焼いた。
続けて何度となく呷る度に腹の中は熱を持ち、思考が段々と朦朧となって行くと、心に有った憂鬱さも漸く姿を消した。
「よう……」
電話から一時間程して、五島は現れた。
彼を迎えようと、恭一が止まり木から振り返った途端、言葉を失った。
トレードマークだった金髪とダブダブの服は成りを潜め、髪型は短くカットされた七三分け、細身のカットソーとジーンズで纏めた格好は、恭一を驚かせずにいられない。
「暫く見ない間に、随分と垢抜けしたな」
「……来る早々、嫌味かよ」
「嫌味でも言える内は花だ。それすら言えなくなったら、悲劇が始まる」
「チッ……」
二人なりの挨拶を済ませ、五島は恭一の隣に腰掛けた。
「再会を祝して」
「ああ……」
ショットグラスが重なった。恭一はグラスを呷ったが、五島は舐める程度だった。
「──あのまま、続いてたんだな」
男も女と同様、付き合う異性との関係によって、雰囲気までガラリと変わるタイプが有る。五島がそうだった。
四年前、最期となったアクションの時も、恭一は彼に女の存在が有る事を気付き、最初は協力を諦めていた。