前編Ⅱ-18
「……俺まで謀ったのか」
「まあ、咄嗟の事だったので」
余裕のあった佐野の眼が、一変して冷厳さを宿した。
「おそらく、惨殺した奴も今日の奴も、同じ組織の者です」
島崎は、黙って佐野の“本音”に耳を傾ける。
「組織の命令で動いていた者逹の中に、裏切り者が出てしまった。若し、組織にバレたら関わった全員が消されかねない。
だから仲間内で殺し、身元が割れない様に処理したのが、大方の真相だと思います」
「なるほど……」
だとすれば、松嶋恭一による“抗日パルチザン”と言うヒントが現実味を帯びて来る。
「すると、組織は総連系か？」
「いえ。この場合、民団も含めた在日組織でしょう」
「うむ……」
二人の話が、おぞましい結論を導き出そうとした時、非常階段へと通じる扉が勢いよく開いた。
「班長！」
現れたのは、鶴岡と岡田だった。
「トラックの特定、出来ましたよ！班長が言った通り、黒じゃ無かったんです！」
鶴岡は、写真係の龍崎と導き出した結論を、拙いながらも何とか説明し、画像をプリントアウトした物を目の前に広げた。
「ほらっ！この三台のトラックです」
「よくやった。明日からの割り出しも、宜しく頼むぞ」
初めて挙げた成果を島崎に褒められ、鶴岡は有頂天になった。
「明日の報告会で、課長の喜ぶ顔が見れますね！」
何気なく放った言葉が、その場の空気に緊張を走らせた。
「残念だが、この発表は控える事にする」
「えっ？」
意味を含ませた島崎の口ぶりだが、鶴岡には到底解らない。
「詳しくは岡田君に聞け。とにかく、報告会で何を伝えるかは、俺の一存で決める様にした」
あんまりな話だ！──納得出来ない鶴岡は島崎に食い下がろうとするが、いち早く岡田に止められてしまった。
「失礼します……」
鶴岡を引き連れ、岡田は非常階段を後にした。島崎と佐野は扉のガラス向こうの、遠ざかる二つの影に目をやった。
二人の眼尻に、柔らかい皺が刻まれている。
「あの二人、たった二日で随分馴染んだようですね」
佐野の言葉に、島崎は肯く。
「岡田君の働きぶりに、感化されたのだろう。良いコンビだ」
辛酸を極める捜査の中で、鶴岡と岡田と言う存在は二人にとって、一服の清涼剤を得た様な清々しさを与えていた。