第一章-2
二人はそれぞれ身支度を整えさせられると、両親の部屋へと呼び出された。
紗夜は泣きそうになるのをぐっと堪えながら小さくなって座り、真耶は怒りも露わに足を組んで座っている。
向かい側の両親は、困ったように顔を見合わせると、小さくため息をついた。
「真耶…どうして、そんなことを…」
真耶の母であり、紗夜の父である人が、口を開く。
「私が気付かなければ、ずっと隠していたってこと!?」
遮るように、真耶が言う。
「いずれ話そうと…」
真耶の父であり、紗夜の母である人が、額に手を当てながら言いかける。
「いずれ!?理由も言わずに跡継ぎを押し付けた私に!?」
真耶のあまりの剣幕に両親がぐっと押し黙る。
すると、これまで黙っていた紗夜が口を開いた。
「真耶…ごめんなさい。私がこんなだから、あなたに責任を押し付けることになって…」
「本当にね!」
怒鳴るように相槌を打つ。紗夜はびくりと肩を震わせたが、また話し出した。
「私ね…この身体だから、家は継げないけど…お父様もお母様も、真耶も大好きなの…。だから…」
一度言葉を区切ると、ごくりと喉を鳴らし、決心したように続ける。
「うちのような家の場合、普通なら、女性型は隠すように育てられ、そのまま生きていく、と聞いたわ。でも、一般家庭の場合、とても稼げるから、特殊な仕事に就くことが多い、って…」
両親が、はっとして続きを遮ろうとする。
「そんな利用価値があるのなら、私の身体、使って欲しいの…!この家のために、真耶のために、役目をください!私を…性奴隷にして!」
はっきりと告げ、紗夜は両親と真耶の顔を順にじっと見つめた。
すぐに反対の声を上げる両親を無視して、無表情のまま真耶が口を開く。
「性奴隷って、何…?」
紗夜はいつも勉強を教える時のように、優しく丁寧に説明を始めた。
「『女性型』は数が少なく、生殖能力がない上に、とても性的に敏感なんですって。そんな物珍しさもあって、上流階級の家庭では使用人として重宝されるの。特殊な教育を施して、その家の主人を愉しませたり、お客様をもてなしたりするそうよ。お給料もいいし、性に対して貪欲な人が多いから、働く側も、進んでなることが多いみたい。それを、俗に性奴隷と呼ぶそうよ」
真耶は少し考えて、質問を投げる。
「でも、上流階級に生まれてきた『女性型』は、隠されるのでしょ?」
紗夜は、少し困ったように微笑んだ。
「そうね…やはり、子供を作れないから…。恥と考える人もいるみたい」
真耶も、そう思ったのだ、「出来損ない」と。紗夜が続ける。
「私は、隠されなかったわ。身体のことは秘密にしたけど、大切に育てて貰った。だから、この家のために働きたいの。普通に働くのもいいのだけど、きっと、性奴隷になった方がずっと利用価値がある。そうでしょう?」
問いかけられて、両親は否定できない。
真耶は、じっと考え、そして、口を開いた。
「お父様、お母様。姉さまを、いえ、この性奴隷、私にちょうだい」
「何を…!」
「自分の姉なのよ…!?」
驚愕する両親に、真耶はおもちゃをねだるように微笑んだ。
「どんなに大切に飼い殺しにしようとも、いずれこの家が私のものになったら、結局私のものになるのよ?今から私にくれたっていいじゃない。大好きな姉さまだもの。私、大切にするわ」
「まだ、あなたは子供だから…性奴隷の意味がわかってないのね…?」
宥めるように尋ねられる。
「あら、まだ子供かもしれないけど、私、そんなに馬鹿じゃないと思うの。さっきの姉さまの説明で、十分わかったわ。セックスのために存在する使用人、ってことよねぇ?」
幼いと思っていた子供の口から出る衝撃的な言葉に、二の句が継げなくなる。
「私はこの家の跡継ぎだし、姉さまの願い通り、有効に使ってあげられるわ。それに、私と姉さまのことなら…子供ができないのなら、なんの問題もないじゃない?だから、ねえ?ちょうだい?」
子供らしい甘えた口調でねだる。しかし、両親は戸惑うばかり。
呆然とする両親に痺れを切らし、先ほどまで癇癪を起こしていたとは思えない決断を下した真耶は、さっと立ち上がり、姉の手を掴んだ。
「もういい。勝手に貰っていくわ。姉さま、一緒に来て。今からあなたは私のものよ」
紗夜が真耶の顔と両親の顔を見比べながらおろおろしていると、真耶が苛立ったように叱りつける。
「立って!」
飛び上がるように紗夜が立ち上がった。そのまま、真耶に手を引かれてこの屋敷の主の部屋をあとにした。